たった一つの星

□07,
1ページ/5ページ



規則正しい寝息が、しんと静まり返った部屋に微かに聞こえる。
その寝息の持ち主である紫龍は、すぐ傍まで飛影が接近してきたことに気付かない。
彼が自分に危害を加えないだろうという信頼からか、無防備すぎるその様子に何故か苛立って飛影は舌を打った。

暢気なものだ、自身が賞品となる大会が今日行われるというのに。
負ければ命が危ないという点では飛影たちも同じではあるが、もう少し危機感を持てないのか。
当然、飛影には敗北する気など微塵もないが。

紫龍の、自身への関心のなさが飛影は嫌いだった。
弱いくせに、自身よりも飛影をなによりも優先させようとする。
人間的な自己犠牲の精神とも呼べるそれが理解しがたく、飛影にとっては得体が知れず不愉快なのだ。

けれど紫龍がどうなろうが知ったことではない。
勝手のいい駒が1つなくなった、その程度なものだ。


部屋を出ようと紫龍から視線をはずしたが、く、と袖を引かれてもう一度目をやると紫龍が袖口を掴んでいた。
放させようと腕を引いたが放れない。


「…紫龍、」


呼びかけても気付かれず、飛影はまた舌を打った。
強引に振り払うこともできる。
が、安心しきった馬鹿みたいな顔で眠る紫龍を起こすのも憚られて、そう思った自分にまた苛立つ。

数分だけだと、誰に向けたものかわからない言い訳じみた呟きののち、飛影は紫龍の眠るベッドに腰を下ろした。



数時間後、暗黒武術会開会の合図とともに第1試合の選手たちが闘技場に姿を見せた。
異様な盛り上がりをみせる観客席の妖怪たち。
対する六遊怪チームは、スラムの期待の星と名高い声援を受けている。
しかし当然のことながら、妖怪を倒してきている浦飯チームに浴びせられるのは罵倒と殺気だけだ。
それで怯む者もこのチームにはいないのだが。

両チームがリングの中央に介するが、どちらも人数が少しばかり足りない。
六遊怪チームもそうだが、こちらは嵐夜が朝から行方を晦ましている。
しかしゲームの進行上には問題ないので今いるメンバーのみで行われることになった。

大将同士で戦い方や勝敗を決めるのだが、肝心の幽助は桑原に背負われたまま以前として起きる気配はない。


「なら代わりは桑原くんしかいないね」


蔵馬の言葉に飛影や覆面からの否定はない。
「え?オレ?」と聞き返す桑原の顔もまんざらでもなさそうだ。


「いやーそんなやっぱそうかなァ、ウラメシの次ってのが気に食わねーが許そう!
よっしゃいっちょ決めてやんぜっ」

「(アホ)」

『桑原がんばれー!』


六遊怪チームの大将是流とこちらの大将代理の桑原が対峙する。
対戦方法は、是流の提示した1対1を桑原が了承した。

リングから離れる際、是流が未だに眠る幽助へと挑発するように妖気を放出させて殺気を放った。
その焼け付くような強さは本物で、覆面や蔵馬も警戒を強める。
しかしそれでもやはり幽助は起きず、是流は幽助の強さを測りかねているようだ。


「では先鋒前へ!」


そうして始まった先鋒戦。
六遊怪チームからは、昨夜幽助たちの部屋に単身乗り込んできた鈴駒。
そして浦飯チームからは桑原がでることになった。


「トップはオレしかいねーだろ!」

『桑原ー!死んだら盛大に葬式してくれるってお兄ちゃんが言ってた!!』

「あの人はオレに死んでほしいのかよ!?つかそこは頑張れとか言うトコじゃね!?」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ