小説
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『あっそ』
『佐藤!』
『左利き…なんだ?』
『奥さん責任重大だね』
『右のクローゼット開けてないっ!?』
『ニセモノだぁ!』
『絶対に忘れないよ…!』
『さよなら。一純』
『久しぶりだね』
――誰?
スキダカラ、スキダッタカラ〜勿忘草の花言葉
『久しぶり。一純』
「あ…あの…? 誰…?」
佐藤一純(16)は恐る恐る聞いた。自分が忘れているだけだったら、ものすごく失礼だが。だがその人・川越理京(14)はあっさりと言った。
「分かんなくていいの。そのために記憶を消したんだから」
一純の頭の中で、霧の向こうに彼女の笑顔が見えた。
(これは…何? 誰? 俺はこの人を知ってる…でも…分からない…記憶を消した?)
キーンコーンカーンコーン
≪休み時間≫
「川越さん!」
クラスメートの飯根波音(16)が声をかけてきた。理京のかつての鬼ダチだ。
「初めましてっ♪ 私ー「飯根波音」
波音の言葉をさえぎるように、理京が言った。
「え?」
「でしょ?」
それを聞いていた村上凛(16)、山田久香(17)、山田美夜(16)、花崎塁(16)が寄ってきた。
「じゃ私は?」
「村上凛」
「私は?」
「山田久香」
「私は?」
「山田美夜」
「すごーい!! みんな当たってる!」
「ねぇねぇあたしは?」
次に、塁が聞いた。
「あ、ごめん。初めて会った人は…」
(はい…?)
「私達も初めてじゃ…?」
凛が聞いた。
「ううん。同中じゃん」
「え゛ええぇえぇぇぇぇぇ!!?」
驚きすぎです。
「どっ…どーゆーこと…?」
波音が言った。
「こーゆーこと」
理京が答えた。そして証拠を見せるためか、理京は魔法で花を出した。
「ハイ。」
そして理京は、波音たちの方へ魔方陣を向けた。
「――私ね、魔女なの。みんなの記憶を、消してたんだ」
魔方陣が光を放った。
『あの時あー言ったのは、聞かれるの…恥ずかしかっ…た…から』
『あっありがとう!』
『私…今日、一純が女になる体質でよかったって思っちゃった…』
『同感』
『だぁってぇ〜一純は自分のこと「オレ」って言わないっしょ?』
『あぁ…それで…』
『じゃあ、サヨナラ』
『絶対忘れないよ…!』
私を…忘れないで
『んーちょっと一純のことで…』
『佐藤君のこと?』
『また佐藤とケンカしたの?』
『う゛〜〜っ』
『本当にそれでいいの? 私が貰うよ? 佐藤…』
『あげないっ!』
『もうだめだー』
『大丈夫。理京なら――』
「理京…?」
「みんなっ…」
「理ィ京ぉー…」
波音と凛は泣きながら理京に抱きついた。久香は泣きながら手を叩いた。美夜と塁も泣いていた。
「理京」
後ろから声がした。振り返るとそこには一純が立っていた。
「一純っ…」
「バカ。なんでこんなこと」
「だって…一純、また魔界にくる…でしょ?」
「当たり前」
次の瞬間、一純の顔は理京の目の前にあった。
「彼女追いかけない人はいない」
(え…)
理京は目を閉じた。
「何目ェつぶってんの」
理京はゆっくり目を開けた。
「しません☆」
一純は舌を出して言った。
「なっ…」
理京は顔を真っ赤にした。
「バカぁー!」
「どわっ!」
理京は顔を真っ赤にしたまま後ろから一純を蹴飛ばした。
一純がキスをしなかった理由は、すぐに分かった。
「塁、好きだよ」
理京が次の授業に行こうとして階段の前を通りかかった時、そんな言葉が聞こえた。
「え…うん。私もっ…!」
塁が答えた。
「じゃあ付き合お」
この声は一純だ。理京を忘れて過ごしたこの3年間の間に、一純には好きな人ができていたのだ。一純にとって人生で2度目の告白は、落ち着いた声だった。
「うんっ!」
理京は階段を下り始めた。
(モトカレの告白。ちょっと悲しいな…まぁ私は――)
「ぎゃ」
理京は5段目で階段を踏み外した。
「わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「今の…」
その声は、階段の近くにいた一純たちにも聞こえていた。
「理京?」
「落ちたの久々…; いってぇ〜」
理京はゆっくり立ち上がった。
「けがしてないかなぁ」
理京は鏡を見るために女子トイレの戸を開けた。そこには何人かの女子がいた。みんな一斉に理京の方を見た。
「きゃぁぁぁぁー!!」
「ヘンタイー!!」
「は!?」
変態呼ばわりされた理京の前で、戸は閉められた。
「何? もう…」
理京はそのまま後ろに下がった。そして真横にある窓に映った自分の姿に気付いた。
「はっ!?」
理京は窓に張りついて自分の姿を見る。
「こっ…これって…お…お…お…」
信じられなかった。自分であって、自分ではなかった。
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