小説

□前
1ページ/1ページ

『あっそ』
『佐藤!』
『左利き…なんだ?』
『奥さん責任重大だね』
『右のクローゼット開けてないっ!?』
『ニセモノだぁ!』
『絶対に忘れないよ…!』
『さよなら。一純』
『久しぶりだね』


――誰?



スキダカラ、キダッタカラ〜勿忘の花言葉



『久しぶり。一純』


「あ…あの…? 誰…?」

佐藤一純(16)は恐る恐る聞いた。自分が忘れているだけだったら、ものすごく失礼だが。だがその人・川越理京(14)はあっさりと言った。

「分かんなくていいの。そのために記憶を消したんだから」

一純の頭の中で、霧の向こうに彼女の笑顔が見えた。

(これは…何? 誰? 俺はこの人を知ってる…でも…分からない…記憶を消した?)


キーンコーンカーンコーン

≪休み時間≫

「川越さん!」

クラスメートの飯根波音(16)が声をかけてきた。理京のかつての鬼ダチだ。

「初めましてっ♪ 私ー「飯根波音」

波音の言葉をさえぎるように、理京が言った。

「え?」
「でしょ?」

それを聞いていた村上凛(16)、山田久香(17)、山田美夜(16)、花崎塁(16)が寄ってきた。

「じゃ私は?」
「村上凛」
「私は?」
「山田久香」
「私は?」
「山田美夜」
「すごーい!! みんな当たってる!」
「ねぇねぇあたしは?」

次に、塁が聞いた。

「あ、ごめん。初めて会った人は…」

(はい…?)

「私達も初めてじゃ…?」

凛が聞いた。

「ううん。同中じゃん」
「え゛ええぇえぇぇぇぇぇ!!?」

驚きすぎです。

「どっ…どーゆーこと…?」

波音が言った。

「こーゆーこと」

理京が答えた。そして証拠を見せるためか、理京は魔法で花を出した。

「ハイ。」

そして理京は、波音たちの方へ魔方陣を向けた。

「――私ね、魔女なの。みんなの記憶を、消してたんだ」

魔方陣が光を放った。





『あの時あー言ったのは、聞かれるの…恥ずかしかっ…た…から』
『あっありがとう!』

『私…今日、一純が女になる体質でよかったって思っちゃった…』
『同感』

『だぁってぇ〜一純は自分のこと「オレ」って言わないっしょ?』
『あぁ…それで…』

『じゃあ、サヨナラ』

『絶対忘れないよ…!』


私を…忘れないで



『んーちょっと一純のことで…』
『佐藤君のこと?』

『また佐藤とケンカしたの?』
『う゛〜〜っ』

『本当にそれでいいの? 私が貰うよ? 佐藤…』
『あげないっ!』

『もうだめだー』
『大丈夫。理京なら――』





「理京…?」
「みんなっ…」
「理ィ京ぉー…」

波音と凛は泣きながら理京に抱きついた。久香は泣きながら手を叩いた。美夜と塁も泣いていた。

「理京」

後ろから声がした。振り返るとそこには一純が立っていた。

「一純っ…」
「バカ。なんでこんなこと」
「だって…一純、また魔界にくる…でしょ?」
「当たり前」

次の瞬間、一純の顔は理京の目の前にあった。

「彼女追いかけない人はいない」

(え…)

理京は目を閉じた。

「何目ェつぶってんの」

理京はゆっくり目を開けた。

「しません☆」

一純は舌を出して言った。

「なっ…」

理京は顔を真っ赤にした。

「バカぁー!」
「どわっ!」

理京は顔を真っ赤にしたまま後ろから一純を蹴飛ばした。




一純がキスをしなかった理由は、すぐに分かった。


「塁、好きだよ」


理京が次の授業に行こうとして階段の前を通りかかった時、そんな言葉が聞こえた。

「え…うん。私もっ…!」

塁が答えた。

「じゃあ付き合お」

この声は一純だ。理京を忘れて過ごしたこの3年間の間に、一純には好きな人ができていたのだ。一純にとって人生で2度目の告白は、落ち着いた声だった。

「うんっ!」

理京は階段を下り始めた。

(モトカレの告白。ちょっと悲しいな…まぁ私は――)

「ぎゃ」

理京は5段目で階段を踏み外した。

「わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「今の…」

その声は、階段の近くにいた一純たちにも聞こえていた。

「理京?」



「落ちたの久々…; いってぇ〜」

理京はゆっくり立ち上がった。

「けがしてないかなぁ」

理京は鏡を見るために女子トイレの戸を開けた。そこには何人かの女子がいた。みんな一斉に理京の方を見た。

「きゃぁぁぁぁー!!」
「ヘンタイー!!」
「は!?」

変態呼ばわりされた理京の前で、戸は閉められた。

「何? もう…」

理京はそのまま後ろに下がった。そして真横にある窓に映った自分の姿に気付いた。

「はっ!?」

理京は窓に張りついて自分の姿を見る。


「こっ…これって…お…お…お…」


信じられなかった。自分であって、自分ではなかった。


後編へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ