小説3

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もう終わった恋なのだが、最後に何か思い出と宝物になるものが欲しかった。だから私は思い切って野村をクリスマスパーティに誘った。勿論メンバーはいつもの4人である。日にちは23日、流石にクリスマス当日は家族との予定もあるだろうし、無理かと思ってのことだった。しかしそのパーティもあっさり断られ、それ以上は誘う気がしなかった。なので、結局クリスマスパーティのメンバーは私と水無、そして永依ちゃんと永依ちゃんの妹の木宮琉依の4人となった。私達(遥名姉妹)がケーキとシャンメリーを用意したので、木宮姉妹はオードブルを持ってきてくれた。テーブルに並べて、シャンメリーを開ける。

「男なんていらねぇー!!!」

と、叫んで乾杯した。


遥名緑の 17


冬休み前の日、長野家のメンバーで住所を教え合った。勿論年賀状のためである。ちなみに長野家というのはウチの班のことである。仲が良すぎて既に家族化していた。長野家というだけあって、お父さんは長ちゃんである。ちなみにお母さんは永依ちゃん、私は息子の緑、絢美が娘の絢美、多村さんがペット(イリオモテヤマネコのぬーん科)の八海ぬーん、野村が死んだ猫の亡霊・キャットゴースト、一家の仕事がハードル投げだった。訳の分からなさは御愛嬌である。
せっかく公式に野村の住所が聞けたのだ。これは出さねばならない。



年が明けて始業式、野村の以外の長野家全員で野村を問い質した。

「野村あああ!! 年賀状は!?」

年賀状を出さなかったためである。ちなみに私は、届いていないのが私だけではなくて安心していた。

「いや一応書いたけどさ、出すの忘れてて」
「何それー!」
「ちゃんと持ってこいよ!」
「よし、じゃあ持ってくるまで食器運び係ね」
「えー!」
「いいね! 決定!」

野村の言い訳は無視。私達は野村が年賀状を持ってくるまで、給食の食器を運ばせることにした。
それから食器を運ばせること5日程、野村はやっと年賀状を持ってきた。

「どっか行ったからもう一回書いたから適当」

そんなことを言いながら1人1人に年賀状を配る。ハガキの上の方に“あけおめ ことよろ”、その下に1人一言ずつ書いてあるだけのシンプルというのもおこがましい適当な年賀状だった。裏には宛先もなく、宛名が適当に書いてあるだけだ。私のは“タネもしかけもないメガネ様”だった。ちなみにメガネはこの頃確かにかけていた。他の人の宛名も同じようなものだった。それで野村が全員から文句を言われたのは当然のことだが、食器運び係はとりあえず終了した。



2月1日。私立高校の入試があった。私は私立と県立併願で、どちらもデザイン科志望だった。ちなみに野村とは志望校は私立も県立も違う。高校では絶対会わないつもりだった。高校が同じだったら諦められないかもしれないからである。高校で絶対新しい好きな人を見つけて野村のことは忘れる、というのが私の決意だった。
その数日後、受験した私立高校から合格の通知がきた。私立は余程の馬鹿か不良ではない限り受かると言われていたので、そこまで大した喜びはなかったが、まあとりあえずは一安心だ。



2月14日。
野村以外の長野家のメンバーと他のクラスの友達数名に友チョコをあげた。今年は受験のため作る時間はなく、買ってきたチョコレートだった。私が野村にあげなかったのは、あげてもどうせお返しをくれないから、あげて嫌な顔をするのを見たくないから、アンタのことはもう好きじゃないのよというアピールが理由である。ちなみに永依ちゃんと多村さんは野村にもあげていた。



3月8、9日。
県立入試が行われた。私は早良山工業高校のデザイン科を受験した。私以外にも早良山工業のデザイン科を希望している友達が5人程いたが、最終的に皆私立専願になり、李郷中からは早良山工業のデザイン科を受験したのは私だけだった(他の学科には男子が2人いた)。今年のデザイン科は定員割れで、大丈夫じゃね? と調子に乗って全く勉強せずに受けたのが私だった。



3月14日。
長ちゃんがお返しをくれた。

「かわいー!」

しかも結構豪華なお菓子だった。

「えーこれまさか手作り?」
「うん、母さんに手伝ってもらったけど」
「うわすげー!」
「美味しそうー!」

そして私達は野村の方を見る。

「で、野村は?」
「…ないけど」
「はあ? まじ有り得ねー」
「普通お返しするでしょー」

永依ちゃんと多村さんが文句を言う。私はあげてないので何も言わないが。
長ちゃんのお菓子は見た目通り本当に美味しかった。お菓子が作れるとはかなりポイントが高い。お菓子を食べながら、長ちゃんを好きになればよかったと思ったのは言うまでもない。何故私は野村を好きになったのか。野村の何を見て優しいなんて思ったのか。今となっては分からなかった。
その2日後。

「はい」

野村が袋詰めのチョコレートを永依ちゃんに渡した。スーパーで売っているようなお徳用のパックである。

「何これ」
「お返し」
「えぇ!?」
「それ分けてよ」
「……」

長ちゃんとの明らかな差に、開いた口が塞がらない。

「あたしも貰っていー?」

私は野村に言った。

「別にいいけど」
「やったっ」

明らかにスーパーで買った袋詰めのチョコではあるが、私的には中1の時のお返しを貰ったつもりだった。チョコは帰りがけに公園で3等分にした。



2006年3月17日。
市立李郷中学校の卒業式だった。使い捨てカメラを持って行き、教室で永依ちゃん、多村さん、絢美と写真を撮る。野村の写真も撮った。先生から卒業アルバムが配られ、寄せ書きの書き合いが始まった。勿論野村や長ちゃんにも書いてもらった。そして硝くんに書いてもらっているときに卒業式の時間がやってきた。野村との別れともなる卒業式、泣くだろうと思っていたが、泣かなかった。
卒業式が終わり、寄せ書きの続きや写真撮影をしたあと、門にある“卒業式”の看板の前でクラスで写真を撮った。そのあとクラスの女子だけで写真を撮る。

「野村ー長ちゃんー写真撮ろー」

2人を誘って長野家の6人で写真を撮る。それが最後の思い出だった。
翌日には人生初の携帯電話を買ってもらい、その翌日には2年2組のプチ同窓会があった。
そして21日、県立早良山工業高校に合格、運命の高校生活が幕を開ける。


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