小説4

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2006年4月10日。
県立早良山工業高校の入学式があった。この学校にはミックスホームルームという制度があり、1年時は学科関係なく成績でクラス編成が行われた。この時点で唯一の友達である柚木はC組、私はE組、周りは知らない人だらけだった。
そんな中、委員会決めが行われる。

「じゃあ次、図書委員ー」

担任が言ったとき、私は手を挙げた。

「よし、決定ー」

担任はすぐに言って黒板に名前を書き始めた。え、今他に誰か手挙げてたの? と私は思う。男子だったら嫌だ。しかしE組は40人中女子が11人だ。他のクラスも男女比はそれくらいだが。兎に角、可能性としては男子の方が高い。ドキドキしながら黒板を見ていると、担任は“図書”の横に“遥名、山刀”と書いていた。
山刀…私はチラッと後ろを見る。山刀西瓜。女子だった。私はホッと一息吐いた。もしかしたら委員会を通じて仲良くなれるかもしれない、と思った。


名緑の恋 18


翌日、健康診断のため、女子の着替え場所として指定された武道場へ私は1人で向かっていた。そのとき私の周りには、同じように1人で歩いている女子が3人いた。そのうちの1人はパパだった。私達はそれぞれで歩いていたのだが、誰が何を言うでもなく、自然に、磁石のように近寄っていった。そしてやはり誰も何も言わずに、ただ武道場へ向かった。

「名前は?」

武道場に着き、4人固まって荷物を置いたところで、私達はようやく自己紹介と相成った。

「西小定中出身の山刀西瓜です」
「ウチは青山中出身の羽間空子」
「私は殿氷中出身の引田美画」
「李郷中出身の遥名緑です」

そうして私達は誰からともなく行動を共にするようになった。これをのちに(?)磁石的出会いと呼ぶ。





4月の終わり、絢美からメールが来た。

“野村の第2ボタンもらいました!
いつ渡す?”

「ええぇぇぇ!?」

私はパソコンの前で悲鳴を上げた。絢美と野村は県立青山南高校、同じ高校だ。クラスは違うらしいが。だから私は絢美に、“野村の第2ボタンもらえたらもらって!”とメールしたりしていた。だがまさか本当にもらえるとは思っていなかったのだ。それは野村が私のことを嫌いだと分かっていたからである。
しかし5月の初め、私は絢美に会い、ボタンを貰った。これが本当に第2ボタンかは分からない。野村が偽っている可能性だってある。それでも貰えたのだ。

「平瀬さんありがとう!」

と笑顔で言う。そして私は、もしボタンを貰えたらやろうと思っていたことを実行することにした。何もついていないチェーンに、貰えたボタンを通す。それを首から提げるのだ。






「演劇部作ろう」

そう言い出したのは、柚木と同じクラスで親しくなった岩山下枝だった。私は目を輝かせた。

「私も作りたい!」

早工には演劇部がなかった。なので私はもう諦めて帰宅部を決め込んでいた。ないなら作るという発想はまるでなかった。しかし作れるのなら作りたい。岩さんの話によると、演劇をやっている先生がいて、その先生は早工には演劇部がないから今は陸上部の顧問をしているのだそうだ。何故陸上? と思ったが、兎に角その先生が顧問を兼任してくれると言っているらしい。部活を新設する場合、まず部員が3人以上集まり、顧問となってくれる先生がいて、その先生が職員会議にかける。そこで認められれば議案として生徒総会に出され、承認されれば同好会として立ち上げられる。更に同好会として1年活動し、実績を積めば来年部に昇格できるらしい。今のところメンバーは岩さんと柚木と私、丁度3人集まっていた。





5月中旬、私はまた気分が悪くなった。工業基礎の授業中で、メカロボの基盤を作るため、はんだ付けの説明を聞いているときだった。感覚で倒れるのが分かった私は、立ち上がって前へ行く。

「先生、気分が悪いので保健室に行ってもいいですか」

前で説明していた先生に言う。しかし目の前が真っ白でほとんど先生の顔が見えない。先生も私が気分が悪いのを察したらしく、

「行ってきなさい」

と言った。私はふらふらと歩いていったが、今にも倒れそうだった。倒れるならせめて廊下で、倒れるならせめて廊下で、と頭で繰り返しながら私は歩いた。廊下に出たところで限界が来て、私は床にうずくまった。うずくまったことで少しだけ視界が回復する。廊下まで出たと思っていたのだが、まだ教室内だったことだけ分かった。先生が私に駆け寄ってきて何か言うのが遠くに聞こえる。やがて私は隣の準備室に運ばれ、保健室の先生が呼ばれた。

「朝御飯食べた?」
「…食べました」

やっと相手の質問に答えられるようになった。

「今までもこんな風に倒れることあったの?」
「…はい。小5のときが最初で、中学のときも…」
「病院には行った?」
「…行ってないです」
「…そう。貧血だと思うけどねぇ」





6月3日。
高校総体の開会式が行われた。早工は全員参加だった。絢美に聞いた話によると、南も全員参加らしい。
開会式終了後、応援に向かう人や帰る人の波を掻き分けながら私は、南の生徒が出てくるであろう出口の方へ向かう。途中中学の知り合いに会って何人か手を振った。きょろきょろしながら野村を捜すが見当たらない。すると、出口の方から歩いてくる見覚えのある人が見えた。絢美だ。隣には同じ中学だった岩山菜子がいる。

「おー緑! 久しぶりー」
「平瀬さん! 野村いない?」
「野村? いるよー」

「ちょっと待ってて」と言って絢美は、岩山さんと再び会場の中へ入っていった。私はドキドキしながら絢美と岩山さんの帰りと野村を待つ。
しかし戻ってきたのは2人だけだった。

「緑ーごめん! 野村いなかったわ。もう帰ったっぽい」
「マジかーじゃあ帰ろ」

そして私達は3人で歩き出した。絢美が最近ハマっている漫画の話、最近の野村や長ちゃんの話などをしながら、私達は別れた。





6月下旬、生徒総会が行われた。行われた、と言っても私はその日体調不良で欠席しており、参加はしていない。パパの話によると、岩さんと柚木が前に立って話をしてくれたらしい。無事に演劇同好会は承認されたそうだ。私はホッと一息吐いた。
更に放課後、入部希望者が3人も来てくれたらしい。しかも3人共男子で、2人は先輩だそうだ。



数日後、部活で入部希望者の2人と初対面した。先輩1人がその日来ていなかった。背の高いひょろっとした男子と背が低く童顔…というか青白くて呪怨の男の子に似た男子。

「1Dの華田織人と、2…Eだっけ?」

岩さんが呪怨に似てる方に向かって尋ねる。呪怨に似てる方は頷いた。

「砂山和輝…先輩」

岩さんが教えてくれた。独断と偏見で勝手に背の高い方が先輩だと思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。背の高い方が同じ学年の華田織人、呪怨に似てる方が先輩の砂山和輝、どちらも役者希望とのことだった。





7月の初め、私は気分が悪くなって倒れた。またしても工業基礎の授業中、今度はポケットバイクを造っているときだった。暑い中冷房のない工場(学校内)にいたことと、その日女の子の日だったことによると思われる。私は一緒にポケバイを造っていた同じクラスの平瀬晏乃に付き添われ、保健室へ向かった。

「リエちゃん」

晏乃は丁度職員室から保健室に戻るところだったらしい先生(川田リエという)に声をかけた。

「あらどうしたの? 真っ青」
「気分悪くなったって。貧血?」
「今何の授業だったの? 実習?」
「工業基礎ー」

先生は私達が着ている作業着を見て言う。実習などの授業時に着る服だ。

「工業基礎で何してたの?」

私を保健室のベッドに運んで晏乃がいなくなったあと、先生が尋ねた。

「ポケバイ作ってました」
「じゃあ工場にいたの?」
「はい」
「じゃあ暑さにやられたのかもねー」
「……」
「病院には行った?」
「…まだ行ってないです」
「一度行っといた方がいいよ」
「…はい」



先生にも言われたし、貧血なら貧血とはっきりさせたかったので、私はお母さんと共に病院に行った。採血をし、検査したが、しかし貧血ではないと診断された。ならば一体なんなのか。それは分からなかった。


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