小説3

□15
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「……あ」
「え!?」

再び梓川さんと蕪木さんに会ってしまった。ばっちり野村と長ちゃんもいるこの状況で。


緑の恋 15


6人の間に気まずい沈黙が流れる。2人は野村達に近寄って「どっちが…どっち?」と訊いていた。言わずもがな、どっちがどっちと付き合っているのかという意味だろう。長ちゃんは苦笑いを浮かべる。

「違うから!! そういうんじゃないから!!」

私と永依ちゃんは必死に訂正したが、2人はニヤニヤとしていた。私が野村を好きということは、学年のほとんどの人が知っている。この2人も例外ではない。自然と野村と私、長ちゃんと永依ちゃんという組み合わせになることは想像がついた。私は溜め息を吐いた。





バスに乗り、電車に乗り、南方駅から歩いていると、野村が

「電車男ドラマ1話見逃したし」

と呟いた。どうやら映画は面白かったらしい。私はホッと一息吐いた。
それから私達は、待ち合わせ場所のスーパーで解散した。永依ちゃんと2人で帰りながら、「また4人でどっか行きたいねー」と言うと、「いや今度は野村と2人で行きなよ」と言われた。





9月の下旬だった。週直が1周し、席替えの日がきた。ウチのクラスは先生が毎回席替えの方法を変えていて、今回はまず女子同士男子同士で3人のグループを作り、話し合いでどのグループが1つの班になるかを決め、できた班内で席を決めるという方法だった。私は多村さんと永依ちゃんとグループを作った。全員がグループとなったあと、クラスのリーダーのようなものである後田有太と浮世夏菜を中心にグループを作り始める。大体の人はなーちゃん達に任せて、話し合いには参加していなかった。やがて後田が野村と長ちゃんを呼んだ。少し嫌な予感がした。野村が眉をひそめるのが見える。野村の表情を見ていると、段々予感が確信に近づいてくる。野村達が離れたあと、後田となーちゃんがこちらを向いてビシッと親指を立てた。その瞬間、予感は確信に変わった。あ、謀られた、と。
そして私は野村の隣の席になった。野村は一番前の窓際の席、私がその隣、野村の後ろに長ちゃん、若干永依ちゃんをストーキングしている田倉恵夢、私の後ろに永依ちゃん、その後ろに多村さん。更に後ろの班の1番前に絢美がいたので、給食の時間はT倉には後ろの班に行ってもらい、絢美がT倉の席に座って6人で食べた。しかし昔ならいざ知らず、この期に及んで隣の席になるなんて、あまりいいことではなかった。後田が仕組んだことなのだ。当然ながら奴は、私の恋を応援するために私と野村を隣にした訳ではない。その日のうちに後田は私と野村の間に立ち、

「野村緑フォー!!」

などと振り付きで叫び、通り過ぎていった。「フォー!!」はこのとき流行っていたお笑い芸人のレイザーラモンHGのギャグである。私は本気で奴の後ろ姿を殴ろうかと思った。当然この日だけではない。そして後田だけではない。他にも5人程度の男子が敵だった。毎日誰に何を言われるかとヒヤヒヤだった。一方で席が近いため、また遊びに行きたいという話は簡単にできた。あまり乗り気ではないように見えたが。



10月、理科の授業中に貧血で倒れた。そして次の日には、英語の授業中に倒れた。段々頻度が高くなっている気がする。
その翌日。
給食の時間に「映画かボーリングどう?」と訊いてみた。すると

「あっボーリングいいねぇ」

と返ってきた。行けるかも! とかなりテンションの上がる言葉である。私にはとある作戦があった。今年の10月31日は月曜日だが、30日に文化祭があるため、31日は振替休日だ。チャンス以外の何物でもない。どうせ1年生のとき遠回しに教えた私の誕生日なんて覚えているはずがないのだ。誕生日だとバレなければ遊びに誘ったって問題ないだろう。



そして10月30日、文化祭があった。
3年生は学年劇で、『人形館』というものをやり、私はチャプという人形の役で出演した。高校では演劇部に入りたいと思った。



そして翌日、10月31日。私の15回目の誕生日。私達は前回と同じスーパーで待ち合わせした。自転車でボーリング場へ向かう。ボーリング場は自転車で20分ぐらいのところにあった。

「……」

黙ったのは、野村以外の3人である。野村は気付かずに私達の前を自転車で行く。ふらふらと。前回はそんなに長距離でなかったから分からなかったのだが、明らかにふらふらしている。

「野村…なんかふらふらしてね?」
「だってほとんど自転車乗ったことないしー」
「自転車乗れるって言ったじゃん!」
「乗れるじゃん、一応」
「危ねぇー!!! コイツ危ねぇー!!」

叫びながら(野村以外)4人はボーリング場へ向かう。野村は危なっかしい運転で私達に付いてきていた。すると突然後ろからガンッと音がする。私達は振り返る。
野村が止まっていた。そのせいで後ろにいた長ちゃんも止まってしまっている。

「…何? 今の何の音?」
「なんか凄い音したんだけど」
「野村が歩道にぶつかったんだよ」
「…歩道に?」

私達は眉をひそめる。まあ要するに、車道を走っていた野村が歩道のコンクリートにぶつかったのである。

「何やってんの!? 色々大丈夫?」
「なんでアンタそんな自転車乗んの下手なの!?」

そんなハプニングもありつつ、私達はボーリング場に着いた。受付を済ませボーリングを始める。長ちゃん以外の3人は驚く程下手だった。ちなみに長ちゃんだけ無駄に上手かった。

「長ちゃんうめぇー!!」
「つーか野村下手過ぎじゃね!?」
「いやお前らも下手じゃん。ガーター塞がれてんのにガーターなるし」
「うっせぇよ!」

そんな状態でボーリングは続いた。3ゲーム程やったあと、私達は隣のゲームコーナーの方に歩いていった。

「あ、あれ…一騎じゃない?」

永依ちゃんが言う。ゲームコーナーの奥のビリヤードの辺りに、それらしき人物がいる。その他にも見覚えのある人達が見えた。うちの学校の男子達である。それもテニス部メンバー。野村も長ちゃんもテニス部だった。

「一騎ー」
「おー野村と長ちゃんじゃん!」

2人は男子達に近付いていく。そして話し始めた。私と永依ちゃんはそれをずっと見ていた。

「…どうする?」
「これじゃ一緒に来た意味ないじゃん」
「うん…」

それからしばらく私達は放置のまま、野村達は男子達に入ってビリヤードを始めた。私達はそれを黙って見ていた。やがて1ゲーム終わり、野村達は戻ってくるかと思ったが、そのまま2ゲーム目に入ってしまった。このままではいつまで経っても戻ってこない。最悪現地解散なんてことになるかもしれない。それでは本当に今日一緒に遊びに来た意味がなくなってしまう。

「次終わったら呼びにいこ」

永依ちゃんが言った。

「…うん」

私はそう返事をした。
またしばらくしてゲームが終わったようだったので、3ゲーム目が始まる前に、私と永依ちゃんは野村達に近付いた。

「野村達、そろそろ行かない?」

永依ちゃんが言ってくれる。

「あー分かったー」

言いながら2人はこちらへ来た。

「じゃあねー一騎達ー」
「じゃあなー」
「おー、また明日な」

一騎達に別れを告げ、私達はボーリング場を出た。そしてすぐ隣にあるファミレスに入った。私が今日楽しみにしていたものの1つである。席に着き、メニューを開く。デザートのページである。

「僕パフェ食べたいんだよねー」

私が言った。この頃の私の一人称は“僕”だった。学年劇で一人称が“僕”の男役だったため、その役作りと称してである。

「パフェ?」
「僕産まれて1度もパフェ食べたことないんだよー」
「えー! マジで?」
「マジで」

野村と長ちゃんは驚く。永依ちゃんには事前に話していたので驚かない。

「食べればいいじゃん。僕ポテト食べよう」

野村が言った。その他長ちゃんはピザ、永依ちゃんはチョコレートケーキ、そして私はイチゴパフェ、全員でドリンクバーを注文した。
少しして、次々と頼んだものがやってくる。お待ちかねのパフェもやって来た。

「誕生日おめでとー」

永依ちゃんが言った。おい! と思ったが、野村と長ちゃんもまるで知っていたかの如く、「おめでとー」と拍手をしてくれた。まあ知っていた訳でも、覚えていた訳でもないと思うが。

「いっただきまーす」

私はわくわくしながら食べ始める。そして。

「あ」

苺を受け皿の上に落とした。「メイン落とすなよー」と野村は苦笑いする。「この上だからまだ大丈夫だよね」と私は受け皿の上の苺を食べた。



「あ」

パフェを食べ終わった頃、野村がポテトをグラスの中に落とした。中身はオレンジジュースである。

「あーあ」
「何してんのー」

野村はポテトを取り出したが、もう手遅れだった。

「せっかくだから誰か食べようよ」
「じゃあじゃんけんで負けた人ね」
「あ、ちょっと待って。タバスコかけようぜ」

長ちゃんが言って、ピザと一緒に運ばれてきたタバスコをポテトに振りかけた。

「うっわー…」

これでポテトは恐ろしいものへと変貌してしまった。罰ゲームをかけたじゃんけんが始まる。そして負けたのは私だった。

「うわーやだー」
「負けたんだから食えよー」
「えー、今日誕生日なのにー!」
「いいじゃん。記念だよ」
「いやだー!」

みんなこちらを見ている。食べた瞬間の表情を期待されているのだ。野村には見られたくなかった。私は野村がドリンクバーにおかわりに行った隙にポテトを食べた。

「うわ…」

当然の如くまずかった。やがて戻ってきた野村に「えー食べたのかよー」と言われたが、そんなの知ったことではない。そして私達はファミレスを出た。
帰りも野村のふらふら運転にハラハラしつつ、永依ちゃんの家の近くで別れた。
別れ際の野村の「バイバイ」がいつもより明るかったと、それだけで嬉しかった。
その翌日と翌々日、野村は欠席した。心配したが、その翌日には元気そうだった。

卒業までと決めていたこの恋は、それよりも先に終わりを迎える。




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