小説3

□14
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『電車男』。
テレビで予告を見たとき、これだと思った。甘すぎず(?)、ギャグ要素のあるラブストーリー。これなら男子でも楽しめそうな気がした。


遥名緑の恋 14



「電車男観よう!」
「おーいいね」

2人もよさげな反応をしてくれた。『ハイドアンドシーク』(ホラー)よりはよさそうだ。野村はホラーが苦手なようだし。という訳で映画は『電車男』に決まった。『電車男』を上映している映画館は、5月にできたばかりのイオンの中にあるセントラルシネマだった。私は初イオンである。凄く楽しみだった。



そして7月8日、私と永依ちゃんは学校の帰りに駅に時刻表を見に行った。私達の最寄り駅は南方駅という見落としてしまいそうな場所にある無人駅だ。というか、私はこんなところに駅があるなんて知らなかった。初めて来たのだ。正直「えっ、これ駅!?」というような駅だった。2人で時刻表を見る。待ち合わせ時間の9時以降の電車で1番早いのは9時53分である。田舎の電車はそんなものだ。

「…50分以上あるね」
「しょうがない。コンビニかどっかで時間潰しとこ」
「うん」

そして翌日9日の9時丁度、私と永依ちゃんは待ち合わせ場所のスーパーに着いた。野村と長ちゃんは既に来ていた。野村は一体何が入ってるんだというサイズのリュックサックを背負っていた。

「ごめーん。電車次53分でさー」
「えー」
「コンビニで時間潰そう」

4人で自転車を漕いで近くのコンビニへ向かう。中で時間を潰していると、隣のクラスの低田健壱が入ってきた。

「うわっ低田健壱だ!」

私と永依ちゃんは隠れる。野村と長ちゃんは普通にマンガを立ち読みしていた。

「別にバレないよね? 4人一緒とか」
「大丈夫でしょ」

そして40分になったのでそろそろ駅に行っておこうということになり、野村達に声をかける。

「そろそろ行こー」

そして低田健壱に見られぬようにコンビニを出、駅へ向かった。
駅へ着くと、改めて“何もねぇー!”と思った。駅の椅子(4つしかない)に座って電車を待つ。野村はさっきコンビニで買ったラムネを食べ出した。

「あっ」

そして1個落とした。

「うわー勿体ねー」
「何やってんの野村!」

3人から文句を言われる中、野村は落ちたラムネを拾って椅子の後ろのコンクリートの上に置いた。

「…何してんの」
「蟻が持ってくかもしれないじゃん」
「……」

少しの間ジッと観察していると、蟻がやって来てラムネを運ぼうとしていた。しかしラムネが重く、中々持ち上げられない。しばらく頑張っていたが、蟻は諦めて去っていった。

「あー、諦めちゃった」
「やっぱラムネ重いんだよー」

そこで電車が時間通りにやって来た。私達は観察をやめ、電車に乗り込んだのだった。
宮崎駅に着くと、東口を出てイオン行きのバス停へ向かう。そしてバスでイオンへ向かった。
イオンに着いたのは10時半頃だった。九州最大(らしい)のイオンにテンションが上がる。

「わー!」

床もピカピカで人も多い。そして広い。私の目は(多分)キラキラしていた。

「映画館何処?」

振り返って永依ちゃんに尋ねる。

「あっちー」

永依ちゃんが右を指差す。4人でエスカレーターで2階へ上がった。すると映画館らしき入口が見える。

「おー! あれか!」

4人で映画館へ向かい、『電車男』のチケットを買う。上映開始まではまだ時間がある。

「先にご飯食べる?」
「だね」

永依ちゃんの提案で私達はピクニックコートへ向かった。しかし昼時なのもあってピクニックコートは物凄く混んでいた。まず座るところがない。

「どうする?」
「やっぱ映画観てからにしようか。時間までゲーセンでも行っとこ」

そして私達は映画館の隣にあるゲームセンターへ向かった。

「ねぇ、プリクラ撮ろう!」

永依ちゃんが言った。計画を立てているとき、密かに永依ちゃんと2人で考えていたことだった。

「うん! 撮ろう撮ろう!」

私達はプリクラコーナーの方へ向かう。

「えー」

野村と長ちゃんは渋りながらも私達についてきた。しかしプリクラコーナーの中には入ってくれない。

「えー撮ろうよー」
「えー」
「いいじゃん別にー」
「だって男は入っちゃいけないって書いてあるしー」

野村はプリクラコーナーの入口にある立て看板を示して言う。そこには【男性立ち入り禁止 ※カップルはOK】と書いてある。

「ウチらがいれば大丈夫だって!」

そう呼んでもあまり効果はなかった。“カップル”がどうしても引っかかるらしい。

「…しょうがないね。じゃあウチらだけで撮るか」
「……そうだね」
「じゃあその辺で待ってて」

言って私達はプリクラコーナーに入った。
プリクラを撮って戻ると、野村達はいなかった。何処かへ行ってしまったのだろうか。ゲームセンターの中を捜していると、箱を抱えた野村を発見した。巨大なフーセンガムの箱である。

「え、何それ取ったの!?」
「取れた」
「うわーでかっ」

そのあともゲームセンターをうろうろし、少しだけUFOキャッチャーなどをしていると、丁度いい時間になった。

「そろそろ行く?」
「そうだねー」

そして私達は映画館へ戻った。チケットを切ってもらい、中へ入る。振り返ると、野村は売店でLサイズのポップコーンを買っていた。

「…でかっ!! それ食べ切れんの?」
「分からん」
「分からんって…」

中に入ると、指定された場所に座る。左から永依ちゃん、私、野村、長ちゃんと並んだ。わざとである。先程チケットを渡す際、適当に渡すフリをしながらちゃんと私と野村が隣になるようにしたのだ。野村は自分と私の間にポップコーンを置く。やっぱでけぇ…と思いつつポップコーンを凝視する。

「食べていいけど」

それに気付いて野村が言う。

「食べていいって」

私は反対を向いて永依ちゃんに伝えた。

「マジで? やったー」

永依ちゃんは私の前から手を伸ばしてポップコーンを食べた。
そして映画が始まる。私は映画の世界に入り込んでいたが、野村がポップコーンに手を伸ばすたび、気になって現実に戻された。
映画が終わって見てみると、案の定というべきか、ポップコーンはまだ大量に残っていた。

「はぁー、面白かったねー」
「てかお腹空いたー」
「だね。昼ご飯食べよー」

そして私達は再びピクニックコートへ向かう。もう3時を過ぎているということもあって、比較的空いていた。私達はとりあえず席を取る。私と野村が向かい合い、永依ちゃんと長ちゃんが向かい合う形だった。わざとである。

「んじゃウチら待っとくから先に何か買ってきなよ」

ということで、野村と長ちゃんが財布を持って席を離れる。私達は座って待機した。

「永依ちゃん、アレ美味しそうじゃない?」

私は、私達のすぐ横にある店を指差す。ペッパーランチという店だった。真ん中にご飯が盛ってあり、周りを肉が囲んでいる、美味しそうな写真があった。

「おーホントだ。食べたいね」
「でもちょっと量多そうだよね」
「そうだねー男子の前で食べるのはちょっとね」

そこである。食べきれるかは全く問題ではない。少しして、野村と長ちゃんはプレートを持って戻ってきた。プレートの上にはハンバーガーやポテトが乗っている。マックだった。2人が席に着いたところで今度は私達が立ち上がった。

「何食べる?」
「無難にマックじゃない?」
「だよねー今度ウチらだけで来たときにペッパーランチ食べよう!」
「うん!」

そうして私達はマックへ向かった。マックでポテトとチキンナゲットとシェイク(言っておくが、足りない)を買って戻ると、野村達は既に食べていた。まあ冷めてしまうし、別に構わないのだが。私達も座って食べ始めた。食べ終わってピクニックコートを出ると、私達は別行動をすることになった。私と永依ちゃんは服などを見に行きたかったが、流石に男2人をそれに付き合わせるのはどうかと思った為である。私達が店の方へ行く間、2人はゲームセンターにいると言った。

「あ、永依ちゃーん!」

野村達と別れて歩いていると。正面から見知った人達が歩いてきた。

「おー!」

同じクラスの梓川苑美と蕪木美緒奈だ。2人は手を振って擦れ違う。

「野村達といるときじゃなくてよかったねー」
「ホント、よかったー」

言いながら私達はファッション街を歩いた。



一通り店を見たあと、私達はゲームセンターへ戻った。野村達と合流したあと、永依ちゃんが「本屋寄っていい?」と言うので、向かいにある本屋へ向かった。永依ちゃんが雑誌を買っている間残りの3人は本屋の中をうろうろする。そのあと帰るため、バス停へ向かう。

「……あ」
「え!?」

そして再び、梓川さんと蕪木さんに会ってしまったのだった。



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