小説6

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僕と彼女と誰かの事情 4



「あるくは歌子の何処が好きなの?」

それから4日の間は歌子がいたので、美愛子と話すことはなかった。月曜日の夜、歌子から遅くなると連絡があり、僕は思わず洗面所を見た。美愛子が風呂に入っている様子はない。それからご飯を作り、1人でテレビを視ながら夕食をとっていると、いつの間にかシャワーの音がしていることに気付いた。僕はテレビの音を消して振り返る。

「美愛子…?」

呟いてゆっくりと洗面所に近付き、ドアを開ける。するとシャワーの音がやんだ。




「何処が好き、か…改めてそう言われると分かんねぇな」
「…何ソレ。じゃあなんで付き合ってんの?」
「んー…なんか、離れがたいんだよなあ」
「……」
「何処が好きとかそういう次元じゃないっていうか…最初はまあ、可愛いな、って思って、けど意外と性格キツくてうわってなって…ま正直合わねぇなとは思ったけど…でも気が付いたら傍にいたんだよな。性格はまあちょっとキツめなとこあるんだけど、それも可愛いっていうか…ツンデレ? みたいな感じ。ギャップが可愛いんだよな」
「…そう」
「美愛子は?」
「え?」
「前の彼氏。何処が好きだったか言える?」
「…そういえば…そうね。何処が好きだったんだろ。頼りがいはないし、私より稼ぎは低いし、家にいてもだらだらしてて…プロポーズもできない。ダメな男だったわ」
「何だソレ。それこそ何で付き合ってたんだよ」
「さあ…ただ料理は凄く上手だった。あるくは料理は?」
「できるよ。一応」
「そう…作ってあげなよ。歌子に」
「んー? 作ってるよ。歌子が遅くなるときは」
「うん。もっと作ってあげなよ。私もなんかさ、彼が作って待っててくれてると思ったら仕事頑張れたし」
「…そっか。歌子もそうかな…」
「そうよ。きっと」
「…そういえば、美愛子は何歳?」
「え? …私は…27よ」
「27か…てことは、4年前だと23…だから、僕の1コ上? か」
「…じゃあ、あるくは22歳なの?」
「ん? ああ、そうだよ。2016年には26だな。信じらんねぇ」
「……そう。そうね。私もそっちでは23なんて信じられない。歳取ったなあー」
「27だってまだまだ若いだろ」
「そう? でもこの歳で彼氏なしって結構ヤバいよ?」
「そうか…? 好きな奴とかもいないの?」
「うん……」
「もしかして元彼引きずってるとか?」
「……うん。かもしれない」
「なんで別れたの?」
「…喧嘩したの。ホントどうでもいいことで。彼は出てっちゃって…帰ってきたら謝ろうと思ってたけど…そのまま、帰ってこなかった」
「…そっか。それは後悔するよな」
「…うん」
「そいつとは、それっきり?」
「うん。連絡先も変わってて…」
「マジかよ…そんなに怒ってたのか」
「うーん…そうみたい」

美愛子は悲しそうに笑う。その男を捜すのはもう無理なんだろうか。そいつはもう新しい彼女を見つけて、結婚したりしているんだろうか。美愛子はまだこんなに想っているのに。

「…もうそんな男忘れろよ」
「え…?」
「そんな、帰ってこなかった男のことなんて忘れろよ! じゃないと美愛子の人生が勿体ないだろ!? 他にもっといい男見つけてさ! 美愛子の方が幸せになってやればいいじゃん!!」
「……あるくだったら、そう思う?」
「おう! お前は幸せになるべきだよ」
「……うん。ありがとう」

ドア越しに、美愛子は泣いているようだった。僕の言葉で少しは心が軽くなったんだったらいいのだが。折角こんな不思議な出会い方したんだ。僕も美愛子の幸せを応援したい。



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