小説4

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ホワイトデーの夜、“めっちゃ可愛い!! ありがとう!”とメールを送った。“どういたしましてー”と返ってくる。ふと、1ヶ月前に亜莎実と碧が付き合い始めたときのことを思い出した。日曜日の夜、メールで。

『次はみどりの番だね』



遥名緑の恋 21


周りの色々な人に相談して、私は侑に告白することを決めた。亜莎実が碧に告白した日の丁度1ヶ月後。「同じ日に1ヶ月違いで記念日が来るね」と亜莎実はニヤニヤしていた。金曜日の音楽の時間、亜莎実と2人でメールの内容を細かく決めた。
このメールを送って、こう返事が来たらこう。そして日曜日。

“クラスマッチお疲れー
格好良かったよ”

私の戦いが始まった。

“ありがとう
見られてたんだーなんか恥ずかしいね”
“いやいや、めっちゃ格好良かったよ!”
“ありがとう”
“ところで突然なんだけど…
侑くんのこと好きだよ”

ついに言ってしまった。私は侑からの着信音を『Flavor of life』に変える。このときの為にダウンロードしておいたものだ。私はドキドキしながら返事を待った。
それから30分程経って、携帯が鳴った。

“恋愛対象の好きってこと?”

私は溜め息を吐いた。告白の返事ではなかった。“うん”とだけ返す。次の返事もまた30分程経ったあとだった。真剣な話をしているというのに、いつも通りの返信ペースだった。

“てことは、俺今告られたって考えていいの?”

当たり前だろう。それ以外に何があるというのだ。

“いいよー”

次こそ返事が来るだろう。私のドキドキは頂点に達していた。そしてまた30分後。

“ありがとうー”

それだけだった。
返事は何処にもなかった。ダメ元で“それで、付き合いたいなあと思うんだけど…ダメかな?”と送るが、もう結果は決まっているも同然だった。私のことが好きで、付き合ってくれるのなら、ここまで先延ばしたりはしないだろう。つまりは、そういうことだった。先程までドキドキしていたのが、段々落ち着いていく。どうせ4月からは違うクラスになるのだ。これなら諦められる気がした。諦められないくらい好きになる前でよかった、と少しだけ思う。それから30分後。私は携帯を持ったまま、1階に歯磨きをしに下りていった。そしてリビングダイニングを過ぎて台所にさしかかったとき。
Flavor of lifeが鳴った。
そのとき、“ああ、終わった”と思った。メールを見なくても、もう内容を悟ってしまった。ドキドキしながら携帯を開くと、そこにはやはり“ごめん”の文字。私の中で、侑に対する想いが段々引いていくのが分かった。

“分かったー
いいよ
ありがとう”

予め用意していた文を送る。これで終わりだった。
しかしそれから15分程経ったあと、再び携帯が鳴った。

“こちらこそありがとうー
ちょっと早いけど、2年になってもよろしくー”
「……」

私は携帯を手から落とした。
どうしてだ。どうして彼は、“あと少しだけどよろしく”と言わなかったのか。“2年になっても”なんて。

「諦め、られないじゃんか…」

私は1人、呟いた。
知らない。私が諦められなくても知らない。“2年になっても”なんて言った侑くんが悪いんだ。心の中で言う。2週間程メールを絶ったあと、再び“またメールしてもいい?”と送ると、“いいよー”と返ってきた。だから私は、諦めないことにした。全ては侑が悪いのだ。





4月、2年生からはクラスが学科ごとになるので、当然私と侑はクラスが離れた。私はF組、侑はD組だった。全く会えなくはなったが、毎週日曜日のメールは変わらなかった。しかも侑は最近、廊下で会ったりしたときに会釈をしてくれるようになった。
ある日の放課後。テスト期間だったため、部活は全面的に停止だった。帰るために靴箱で靴を履き替える。するとちょうど靴箱に侑が歩いてきた。目が合うが、花内と碧も一緒で、何もできない。私は靴箱を離れた。
門を出て少し歩いていると、花内が自転車で私の横を通り過ぎた。次に碧が横を通る。最後に、侑が私の横を過ぎたとき、彼は振り返って私を見た。そしてにっこり微笑んで、私に向かって手を振った。私はどきっとしながらも、反射的に手を振り返す。道は緩くカーブになっており、すぐに侑の姿は見えなくなった。

「侑くんが、手…振ってくれた…」

私はドキドキしながら呟いた。侑が、侑が振り返ってまで手を振ってくれたのだ。今までは会釈をしてくれることはあっても、手を振ってくれることはなかった。嬉しすぎる。嬉しさのあまり早速多村さんや永依ちゃんに報告した。

“こんなこと言っていいのか分かんないけど、私は告白してよかったんじゃないかと思うよ”

多村さんがそう返信をくれた。そのとき私も、そう思っていたのだ。フラれはしたが、告白したあとから侑が会釈をしてくれるようになった。今日は振り返ってまで手を振ってくれた。告白してからの方が、告白する前よりずっと幸せだ。





6月の終わり頃、8月に行われるインターンシップのメンバーが決まった。私は家から車で15分程のところにあるホームセンターで、メンバーは私と柚木、そして同じクラスの長梅硝一だ。ジャンケンの結果、私は班長になってしまった。班長はインターンシップ先に電話し、確認を取らなければならない。職員室の電話の前に立つ。

「……」

立って、そのまま固まっていた。私は電話が恐ろしく苦手だった。

「ねぇ、ミドリ早くしちゃいなよー」

後ろで柚木が言う。いや、分かっているのだが、どうしても受話器が取れない。ドキドキしたまま、受話器を取りたい手を空に浮かせたまま。

「…何やってんの」

そのとき、声がして振り返る。

「…華田」

華田だった。

「インターンシップの電話しにきたんだよ」
「じゃ何でしないの」
「電話苦手なんだって」
「…あ、そう」
「アンタこそ何しにきたの?」
「俺も電話だけど」

華田はそう言って、私が取ろうとしている電話とは別の電話を手に取った。そしてあっさりと電話を終えて去っていく。

「ちくしょう…アイツ…」

それから数分後。私がまだ電話の前で唸っていると、再び華田がやって来た。

「まだ電話してねぇの?」
「うっさいな!」

私は未だに手を空に浮かせたまま固まっている。

「いつもと全然違うな」
「いつもはこう、棘で覆われてる感じ?」
「あーじゃあ今は棘が抜け落ちてる感じ?」

唸る私の後ろで、2人は好き勝手言う。

「…なんか、可愛い」

華田が呟いたのを私は聞き逃さなかった(できれば聞き逃したかったが)。ゾワッと鳥肌が立つ。はっきり言って気持ち悪い。

「つーかアンタ何でいんの!? どっか行けよ! 帰れよ!」
「はいはい」

華田は、去っては再び様子を見るように職員室に戻ってきた。正直ウザい。何度目かに華田を追い払って戻ってくる前に、私は漸く電話をすることができた。終わって時計を見ると、17時50分だ。そこへまた華田が来た。

「なんだ。やっとできたの?」
「あ?」
「つーか何分かかったよ」
「50分…ぐらい」
「50分!? 電話するだけに50分もかけたの!?」
「うっせーよ!」

私は華田を叩く。すっかりいつもの調子に戻っていた。






“工業数理教えてくれない?”

私はデザイン科だったが、デザインは高校でやめるつもりでいた。クラスメイト達の画力とデザインセンスを目の当たりにして、自分には絵の才能はないと気付いたのだ。うちのクラスで芸術系以外の大学への進学を希望をしているのは、私とパパの2人だけだった。そのため、私達は他のクラスの人達と工業数理を受ける羽目になっていた。しかしデザイン科の私達に、そんな授業はとてもじゃないがついて行けない。更に、先生の滑舌が悪くて何を言っているか分からない。ますます訳の分からないことになっていた。だから、それをチャンスと捉えることにしたのだ。侑も進学希望なので、工業数理をとっていた。

“いいよー
いつがいい?”
“夏休みかなー”
“分かったーまたメールするわー”
「きゃあああああ!!!」

私は悲鳴を上げた。今まで“メールしてよ”と言われたことはある。しかし“メールするわ”と言われたことはなかった。嬉しすぎる。

「待ってて…いいんだよね?」

それから私は、いつも通り日曜日にメールしながら、侑が勉強会の話題を出してくれるのを待った。しかしその話は一向に出ない。

「待ってて…いいんだよね? メールするって言ってくれたし…いいんだよね…?」

そんな状態で8月も半ばに入った。確か侑は夏休み中も部活がある。しかしお盆は休みのはずだった。勉強会をするとしたらその期間しかなかった。
お盆休み前の日曜日。話題が出るなら今日しかないと思っていたが、内容はいつも通りだった。もう忘れてしまったのだろうか。少々忘れっぽい人ではあったが。しかし自分から催促するようなことはしたくなかった。そして諦めていた午前2時。

“そういえばこの前の勉強教えるって話だけど…14日でいい?”

まさかの展開だった。何せ現在時刻は午前2時だ。何度も言うが、午前2時なのだ。そろそろ“もう寝る”と来る頃かと思っていた。そこにこれである。危うく悲鳴をあげそうになった。この時間にはあげるわけにはいかない。

“いいよー”

結局3時過ぎまでメールは続き、翌日もメールをした。私は2人が集まりやすい高校周辺にするつもりだったのだが、侑は南方駅まで来てくれると言う。もしかしたら、自分の知り合いに私といるところを見られたくないのではないかと思ったが、会いに来てくれるというのは嬉しかった。駅から歩いて8分程のファミレスに決まった。
そして翌日。
私はドキドキしながら駅に着いた。相変わらず何もない駅だ、とはもう思わない。毎日通学に使っている。待ち合わせは電車が駅に着く時間だった。私は椅子に座って電車が来るのを待った。
やがて電車がやって来る。何人か降りて、去っていく。そして。
ドアは閉まり、電車は行ってしまった。

「……あれ?」



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