* If *
□If
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その日、俺はとてもイライラしていた。
原因は一つじゃない。休みの日だからかヤラカシがいつもより多いとか、お気に入りの靴が汚れてしまったとか、電車を一本乗り逃してしまったとか。そんな小さな事が積み重なっていた。
「…はよー」
「おう、はよ!」
「はよーっす」
スタジオに入るといつものメンバーが振付の練習をしていた。今日はいつも出ているBSのテレビの収録だ。俺たちは結構沢山の曲を歌い、踊るので、必ずこうやって集まる練習日があった。
「お、亀、はよー」
仁が後ろからかすれた声で挨拶をする。とても眠そうだ。午前中の仕事では、いつものことだけど。
「じゃあ一回合わせてみるぞ!スタンバイ!」
サンチェさんの声に、配置について最初から曲に合わせて踊り始める。
すると、途中で仁が立ち位置を間違えた。すぐにサンチェさんに指摘されて、すみませんと謝る声が横からする。
また最初からやり直して踊っていたら、今度は仁がフリを忘れたらしく、また怒られている。
何かが切れた音がした。
「いい加減にしろ!!仁もさぁ!忙しいのは知ってるけど、俺も一緒なんだよ!振付くらい…せめて立ち位置くらい、ちゃんと覚えてこいよ!!!」
しん、と静まり返る。俺の声が広いスタジオに響いていた。しまった、と思った時にはもう遅かった。
「…わるい。俺一人で練習してくるわ」
目を逸らしてそのまま踵を返してスタジオから出ていく仁の後ろ姿を、引き留めることもできずにただ、見ていた。
「…亀。あの言い方は、ないだろ?」
そう静かに中丸が切り出した。
「そうだよ。亀もドラマで時間ずれてたから知らないだろうけど、赤西はこないだ時間合わなくて、さっきこのフリ聞いたばっかりなんだぜ?」
聖が少し気を使った様子で言う。どちらの味方もできない、けど真実は伝えておかなきゃいけない。そう思っているのが伝わってきた。
あぁ。何で俺はこうなんだろう。
何も知らないのに、自分だけが頑張ってるみたいに、偉そうに。
仁だって、努力していること、知っていた筈なのに。
こんな言い方しかできなくて、リーダーでもないのに仕切ったりして
そんな俺のことをみんなが嫌だと思うのは、当然なことなのに…
すると急に意識が途切れて、視界が真っ暗になった…
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