Blanches fleur
□葬歌
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肉食獣が獲物に止めを刺すように、喉笛に噛みつく。
そのまま食い千切ると、空気が漏れ出したのか静かになった。
喉が食い破られた妖獸はぬらぬらとした怪しい色で自身を彩り、痛みにのたうち回った。
「お前がこの人を殺したということは」
「今度はお前が私に殺されるということよ」
口や腕を血で汚したロゼの目は冷たく、何の感情も伺えなかった。
やがて妖獸が息絶え、動かなくなると、ロゼはその場にへたりこんだ。
振り返ればすぐそばにラグが横たわり――
「…ラグ…」
触れた頬は、冷たい。
驚いたように見開かれた翡翠色の眸は何も映しておらず、色の失われた唇は二度と彼女の名前を紡がなかった。
「…アナタ、嘘ついたこと…なかったじゃない…」
紅色の瞳から涙が溢れ出す。
動かなくなったラグの体を抱き締めて慟哭した。
「騙したのね!私…私は信じてたのに!」
責める声は哀しく廃墟に響く。
彼女を慰めるものは何もなかった。
「いや……嫌よ、こんな…ッ!」
一頻り泣いても涙が枯れることはない。
いっそ妖獸になってしまえれば、もう辛いものを見なくて済むのに等と栓無いことを考える。
余りにも、『彼』という存在が大きすぎた。
喪う前では分からず、喪ってから知るのでは遅すぎる存在。
悼みと痛み。
咽び泣いても二度と手に入らない大切なもの。
もう一度。
せめてもう一度、
アナタに抱き締めて欲しかった。
「ラグ…」
呟きは風に浚われ、虚空へ散り散りに消えていく。
××××
本編はバッドエンドにだけはしたくないなあと思いました。