Noir fleurs

□青い薔薇
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「綺麗でしょう」
「ええ」

見渡す限りの青い花園。
宵闇がいなくなった静寂の中で、幽闇はロゼに話し掛けた。

「ロゼちゃんは、どの花が好き?」
「私は…」

彼女は周りを見渡し、そして目的の花を見つけて歩み寄る。
その花弁にそっと触れた。

「私は薔薇が好きですわ」
「薔薇か…賑やかで綺麗だよね」
「…けれど」

一旦言葉を切って、おもむろにその茂みに潜む棘に手を伸ばす。
幽闇が、危ない、と制止する前にロゼの指からは血が滴った。

「ユアン、私は深紅の薔薇が好きなんですの」
「…青い薔薇じゃ、だめ?」

小首を傾げて幽闇が問う。
それに微笑んで、ロゼは唇を開いた。

「青は生の色――とても美しいと思いますわ。けれど、私にとっての生の色は『赤』ですから」

幽闇が口を開きかける。
それをやんわりと制止して、ロゼは言葉を重ねた。

「ユアン、ご覧になって」

差し出されたのは、彼女の傷付いた指。

「私は生き血を糧とする者。血の色こそが生の色なんですのよ」
「…そっか」

納得したように頷くと、新たな疑問が頭をもたげた。
彼女の背中をじっと見つめて「翼はないんだね」と尋ねてみる。
すると彼女は可笑しそうに笑った。

「翼を持つことを赦されるのは天使様だけですもの」
「…そうなのかな」
「ええ」


ざあ…と風が吹き抜け、二人の髪を空に散らせた。

風上から宵闇の声が響く。

「ちょっと!ボクの幽闇となに喋ってるのさ!」
「またいらしたの?貴方、実は暇なんじゃなくて?」
「うっざ!ボクは有能だから仕事なんかさっさと終わらせられるんだよ!」
「まあまあ二人とも…」


静寂が騒によって破られる。
こんな賑やかな日も良いかもしれないと幽闇は独り言ちた。


「もう!何とか言ってやってよ幽闇!」
「私は悪くないわ」
「はいはい、喧嘩しないの」


****

そしてロゼは薔薇が好きです。
紅い色も好きです。

赤が好きだから薔薇が好きなのか
薔薇が好きだから赤が好きなのか

それは定かではありませんが。


S錠さん、双子を快く御貸しくださりありがとうございました。



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