Noir fleurs

□コラボ小説(漆夜)
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漆夜は境内を掃いていた。参拝客のいない時間を見計らって、素早く、丁寧に。この社が清潔に保たれているのは彼のお陰と言っても過言ではない。

一通り掃き終え、箒をしまって次は室内を片付けようとしたその矢先の事だった。

彼は確かに玄関の戸を開けた筈だ。しかし、目の前に広がるのは洋間。八角形のその部屋は入り口以外の全ての壁面が本棚に覆われていた。

(……!?)

ピシャッっと音が立ちそうな程強く閉め、深呼吸をしてから勢いよく開く。

やはり洋間があった……。天井が相当高いらしく、本棚もまた果てしなく上に伸びている。しかも収まっているのは赤子の背丈程もある百科事典の様に分厚い書物ばかり。全て同じものなんじゃないかと思わせるような、そっくりな背表紙だった。

呆然としながらも、漆夜は一歩踏み出す。後ろ手で戸を静かに閉めたのは、侵入した事を極力悟らせまいとする警戒心故か。

「こんにちは、お客さん。何かお探しかね」

突然、声が聞こえ、漆夜は硬直した。どうにか声の方に首を回すと、床に積まれていた本の間から一人の少年が立ち上がった。ひょっとすると、少女かもしれない。古代中国の文官に似た服装の、少年とも少女とも思われる人物と漆夜の距離は僅か50cm程だった。

「……ッ!!」

「ああ驚かせてしまったかな?すまないね。友人達の整理をしていたんだが……まぁお茶でも出そう」

どっこいしょ、と何とも爺臭い掛け声を呟きながら彼(?)は本の山を跨いで何処かに消えた。

帰らなくては、と思った漆夜が自分の入って来た戸の方を向くと……。

そこに有ったのは室内と同じく西洋風の扉だった。彼の住んでいる社の引き戸ではではない。

「何……だと……!?」

「どうかしたのかね?」

再び少年(?)が現れた。手にした盆にはティーセットが乗っている。

「この扉は初めからこうだったのか?」

「あぁ、建てた時から変わっておらんよ」

「……」

「ふーむ……。お客さん、さては下界の人だね」

「下界?」

「その様子だと、迷い込んだのだろうね。此処は天上界だよ、君達が極楽、或いは天国と形容する場所さ……さぁ其処の椅子に座りなさい、この暇人が説明してあげよう」

漆夜が示された椅子に座ると少年らしい人物はテーブルにティーセットを置いて茶を淹れてくれた。
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