Noir fleurs

□第五巻
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ぱらぱらと夏の風に捲くられたページは、誰に閉ざされることも無く、自由にその身を委ねていた。



【九九九頁】


「ねぇねぇ!明日の服どうする?」
「あたし、こないだ買ったボレロ着ていこうかな」
「あーうちはどうしよっかなぁ…」


弾む声。
華やぐ空間。
何てことは無い、フツウの中学の、フツウのクラス。

けれど、私はあの子達の会話には入れない。
すぐそこ、手を伸ばせば触れられるほどの距離だけれど――私は、誘われていないから。

勿論、一緒に行ってもいいかと聞いた。
私はただのネクラじゃない。
…別にネクラな人だって、誰に迷惑を掛けてるわけでもないんだから、良いと思うけど。


「あー…ごめん、今回はうちら三人で行くってことになっちゃっててさ」
と、かなり気まずそうに断られた。

そんな顔しないでよ、気にしないで。
そう言って微笑んだつもりの頬は、どうも上手く動いてくれない。

私と彼女たちとは、違うイキモノなのだ。きっと。
そうでなければ、どうして私は上手く笑えないのか。

昔からそうだった。
何処へ行っても馴染めない。溶け込めない。

私はきっと違うイキモノなのだ。 
そう、思っていた。



小さいときから自傷癖があった。
幼い頃は爪でつけられていた傷は、いつしか刃物で深く抉られることになるのだが。

事件は小6の冬――受験戦争の直前に起こった。



親からの一言。

それは、もう本当に些細な一言で。
それでも、当時壊れかけていた私のココロは、それだけで呆気無く崩壊した。

泣き叫び、モノを手当たり次第に投げつけては壊し。
それがやがて納まると、部屋に閉じこもり、真っ黒なカッターを腕に添え――思い切り引いた。
白い腕に紅が滴り、痛みが疾る。
その痛みは『生の実感』だった。
どうしてもその痛みが必要だったのだ。



自分はどうして此処にいるのか。


何がしたいのか。



何故、生まれてきたのか。




分からないまま迷走して。
まるで聞き分けの無い赤ん坊の様に泣き叫んで。




私は、何を成すために生まれてきたの?





何度も何度も刃を腕に滑らせる。
疵は幾重にも折り重なり、瞳からは涙が零れた。

感覚がなくなるまで、それは続いた。


皮肉にも、本来命を絶つための『その行為』が、結果的に私の命と自我を留めていた。





中学にも無事に受かり、何となく馴染めずに、もう二年目。
どうせ馴染めないのだからとは思ったが、一応トモダチヅクリなんて、してみたりして。
楽しいと思う。
けれど、時折物凄い寂しさに襲われる。

何が私をそうさせているのか、分からない。


だからきっと、私は違うイキモノなのだ。
今でも。



けれど私は出会ってしまった。
私とも彼女たちとも違う、残酷なまでに美しい、焔を纏った天使を。
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