Noir fleurs
□第三巻
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XXXに囚われた女の子
その魂は何処へ至るのか
【六六六頁】
静かな空間。
ステンドグラスから零れてくる、柔らかな光。
並ぶ机。
彼の有名な神の子が括られた十字架。
その前に、少女が一人。
年の頃は十五、六。
深い海色の瞳が印象的だった。
修道女の服を着て、ロザリオを握り締めて、その少女は懸命に親兄弟の無事を祈っていた。
遠くから地鳴りがする。
≪其処≫にいるわけではないのに、焔が舐めるように家々を焼いていく様が目に浮かんだ。
轟、という風の音が聞こえた気がした。
家族はみんな遠き地に縛り付けられて、赤錆びた風車を守り続けている。
どうしてそれを守っているのか、誰も分からない。
けれど、どうしても守りきらなければならないらしい。
嗚呼、みんなあの地で戦い続けているというのに、どうして私は≪安全な場所≫にいるんだろう。
修道院に入ったときからずっと抱えてきた思いが、またおもむろに頭をもたげた。
長きに渡る争い。
私が生れ落ちる前から、ずっと。
不毛な戦争。
得るものは何も無い。
憎しみが憎しみを生み、血を生み、闇を生む。
光は失われ、男は減り、子供は死に。
不要な戦争。
宗教が違うというだけで。
神様は戦いなんて、きっと望んではいらっしゃらないのに。
それなのにどうして、神の御名の元に戦争を正当化するんだろう。
どうして、大人はそれが『おかしいこと』に気がつかないんだろう。
こんなに簡単なことなのに…みんな同じ人間なのに、どうして仲良く出来ないんだろうと同じ問いばかり、ぐるぐる走馬灯のように回し続けて、一体何年経っただろう。
嗚呼、未だ私には分からない。