Blanches fleur
□そうじゃないのに
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「もういい!」
シードルの部屋に高い怒声が響く。
今にも何かが零れ落ちそうに震えた声は、怒りに満ちていた。
原因はジン。
彼が女を誘い、血を吸っていることを知った彼女は怒った。
そして、理由を明瞭にさせない態度に激昂した。
「シードル、」
「お前なんか大嫌いだ!」
乱暴にドアを開け放って駆け出したシードルを、ジンは静かに見つめるしかなかった。
謝らなくてはと思っても、何から話せば分かってもらえるのか――『女誑し』とまで言われた吸血鬼にも、さっぱり分からなかった。
情けのないことだと思いながら、ジンは溜め息を吐いた。
*
シードルは早速後悔していた。
怒鳴って出て来たはいいが、あそこは自分の部屋だったと。
そして、最愛の…今は少しだけ嫌いな彼のことを思った。
何か。
彼は何かを言おうとしていた。
何度も口にしかけては、言いにくそうに口をつぐんでいた。
あれは、何だ。
普段彼はあんなことをしない。
聞けば何でも答えてくれるし、聞かなくても愛を囁いてくれる。
そんな彼が言い澱むこととは、何だ。