Blanches fleur
□覗く舌先が欲するのは
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――子の刻、朱羅ノ宮。
その褥から押し殺したような悩ましげな声が漏れ聞こえる。
そこへ交じる男の囁き。
余程の阿呆か稚児でなければ、現場を直接見ずとも中で何が行われているのか判断するには十分すぎるほど揃えられた材料。
獣のように――実際、彼の本質は獣に近いのだが――紅葉の肌に噛み痕を残して、黄蓮は唇をぺろりと舐めた。
「綺麗だぜ、紅葉。肌白いから朱が映える」
噛み痕を指先でなぞると、すっかり敏感になった紅葉の体が震えた。
「アンタ…その噛み癖…どうにか、ならへんの…?」
「悪ィけど俺ァ狐だからな」
「関係、ないやろ…っ!」
「そうか?」
くすっと笑うと、黄蓮は紅葉の唇に自らの親指を滑らせた。
ぴくん、と彼女の体が小さく跳ねた。
躊躇いがちに覗いた舌先が黄蓮の親指を掠めた。
微かな快感。
沸き上がる焦燥感。
頭をもたげる情欲。
荒くなる息。
自身の熱を刺激されることよりも迂遠で、なのに興奮する。
乱されている自分を悟られないよう、精一杯の虚勢と余裕をかまして意地悪に囁きかけた。
「どした?物欲しげな顔して…」
紅葉は我に返ったように口を閉ざした。
逸らした瞳には羞恥からくる躊躇いと欲の色。
そこへもう一押し、言葉を付け足す。
「紅葉が望むこと、何でもしてやるよ」
さあ、
俺の手の中に落ちてこい。
「ほんまぁ…?」
「ああ」
間延びた言葉は欲に濡れて。
この時、この瞬間だけ彼女は巫姫ではなく、――愛しい男を求めるただの女になる。
「あんなぁ、そしたらなあ…」
「ん…?」
「…黄蓮の、欲しくてしゃあないねん…」
好きな女が自分の手で乱れて、自分の熱を求める。
泣いた兎のように濡れた紅瞳でこちらを見上げるその顔が可愛くて仕方ない。
だからいじめたくなるんだ、と胸中で呟いて、彼は唇を笑みの形に歪める。
「…どこに欲しい?」
「………うちの、中に…ッ!」
一瞬の躊躇を見せたが、彼女は焦れてその言葉を口にした。
混じり合う吐息。
黄蓮の笑みが濃くなる。
「いいぜ。…力抜いてろ」
狐は舌嘗めずりして獲物の兎に牙をかけた。
愛を込めて兎の首筋に口吻けて、その肉を味わう。
これだから狩りは止められない。