七重の珠
□治療
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皆がこっちを向いている。
視線が痛いほどに突き刺さってくる。
傷ついた小柄な体は蒼白な顔をして、眉間には僅かにだが皺が寄っている。
嫌いな人間が群がっている村を駆け抜けながら、漆夜は吐き気と闘っていた。
―――人間を見ると胃の奥底から湧き上がってくる嘔吐感。
人間が気持ちが悪いと思いながら、それでも彼はくわえた主たる少女、耀を捨てて逃げたりはしなかった。
自分でも、分からなかった。
ただ、薬師のところに連れて行かなければとだけ思っていた。
「紅埜様!!」
荒々しく暖簾を鼻先で掻き分け、漆夜はその名を呼んだ。
「なんだい、全く騒々しいねェ…」
奥から気だるげに出て来た女性は、頭をやはり気だるげに掻いて、彼がくわえた少女に目を留めた。
「紅埜(コウヤ)様、主が魂裂きの姫に…」
「…嗚呼、その子かィ?アンタの新しい『主』は」
「ええ、それで…」
「まあ、そう急くんじゃないよ」
漆夜から耀を受け取り、彼女は耀の制服を脱がせ始めた。
「ほら、アンタはどっか行ってなよ。女子の肌がそんなに見たいかィ?」
「ば…ッ…そんなわけないでしょう!」
「そうかィ?」
くすりと笑う紅埜。
腹立たしげに彼女を見やった漆夜は、ため息を一つ吐き部屋を出て行った。
そんな彼の姿を見送ってから、紅埜は袖を捲り上げて、呟く。
「こりゃ、失敗したら殺されちまうねェ…」
紅埜の指先に光が灯り、キィンという耳鳴りのような音がした。
その指を少しずつ傷口に沿わせていくと、傷が塞がり、耀の顔にも生気が戻ってきた。
「全く…神経磨り減っちまうよ…」
より一層力を込めながら、彼女はふっと笑った。
排他的だった彼が、ここまで変わるなんて、と。