Noir fleurs
□第五巻
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夜、風を入れようと窓を開けた。
夜は好きだ。
何も余計なものの息遣いは聞こえない。
息衝いているのは、人間以外の動植物だけ。
澄んだ空気。
さざめく森。
揺らぐ陰。
何者にも穢されず、そこに在る自然。
しかし、今日は何かが違う。
星が、不自然に明るい。
…いや、あれは果たして本当に星なのだろうか。
そんなことを最後まで考え終わらないうちに、ひゅう、と一陣の風が部屋の中に舞い込んだ。
色素の薄い長い金髪を緩く纏めた…人?
人なれば、何故翼が生えているのだろう。
嗚呼、頭が働いてくれない。
「…誰?」
兎も角、そう口に出すと、その『羽根の生えた人』は柔らかく微笑んで、その透き通った碧眼を私に向けた。
「そうだね、私も、夜中に窓から羽根の生えたイキモノが入ってきたらそう言うだろうね」
「…質問に答えてよ」
「嗚呼、そうだった」
さらりと長い髪を軽く梳いて、軽く傅く。
「私は≪熾天使≫、イシャットと呼ぶ者も、単に焔と呼ぶ者もいる」
「…名前、ないの?」
「ああ。もし良かったら、名前を与えてくれるかな」
「そんなこと…出来るわけないじゃない…」
「そうか…それは残念だ」
呆、としながらその姿を眺める。
朱く、煌く彼は、私のベッドに腰を掛けた。
――嗚呼、別に燃えたりはしないのか。
それを望んでいたわけではないけれど、何となくがっかりした。
「それで、…そんな気高い天使様が、私に何の御用事?」
未だ薄く光を放つ彼に何とか問いを投げかけると、彼はまた一つ微笑んで、私の頭をぽん、と撫でた。