痛み
□壊れそうな君に触れて
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この話は雪の季節。
俺がまだ幼かった頃の話だ。
あの頃の俺は雪が大嫌いだった。
「土方さん、なにやってるんですかィ?」
その日は綺麗な月の晩だった。土方は道場の縁側に座り月を見上げていた。
いつも気の張っている土方が悲しそうな目をしていた。
「総悟…いや、なんでもねぇよ…」
幼い総悟は出会ったばかりの土方の事を何も知らない。土方は自分のことを話そうとしないからだ。
けれど、総悟も無理に聞こうとはしなかった。
忘れたい過去は誰にでも有るものだと近藤が言っていたから。
「月、綺麗ですねィ」
「そうだな…」
一匹狼でたくさんの敵がいて、人を信じてこなかった。と言うことは知ってる。
これは、誰もが知る噂の範囲内でしかない。それ以上は知らない。
「あ…雪でさァ…」
土方を取り巻くようにふわりと雪が舞った。
総悟は思わず、雪の欠片を手に取る。綺麗に形作った結晶は溶けて消える。
「綺麗だな…」
総悟には大人びて見えた土方が雪を手に取り年相応に笑う。
綺麗で悲しげで今にも壊れそうだった。
「土方さんはずっと此処に居るんですよねィ?」
「さぁ、居なくなるかもなしんねぇな…」
「え…?」
「俺は此処にいていい人間じゃねぇ…」
「どういう意味ですかィ?」
土方はクスリと笑う。
総悟は土方のこの笑みが嫌いだった。
自分は大人だと振る舞っているようだったから。
「そういう意味だ」
子供扱いされているようで、イラついた。
絶対に追いつかない差があるようで嫌だった。
土方はまた、自嘲気味に呟くと黙り込んでしまう。
「話してくれないんですねィ…」
「いつか話すさ。そうだな、お前ェが俺より強くなったらな」
たまに、壊れそうにみえる。
そんな風に笑うから不安になる。
「約束でィ!」
「あぁ…」
寒空にふわり、雪が舞う。
総悟は凍えかけた手を伸ばし、ギュッと土方に抱きついた。
「総…悟…?」
誰を見ていても構わない。
ただ、触れていたい。
「寒いでしょう?
温めてやりまさァ…」
この気持ちは何だろう。
これが恋なのだろうか?
もどかしさ、恨めしさ、苦しさ、名も知らぬ感情が混ざり痛みに変わる。
(相手は男なのに?)
「ありがとよ…」
その痛みを知っているから、嘆きたくなる。
(それがどういうことか、わかってるから)
「別に…」
そう、自分でも恐いと思うくらい彼を愛してる。
(今にも壊れそうなアンタに触れていたい)
「可愛くねぇな…」
「お互い様でさァ…」
雪は嫌いだ。
あまりにも静かで無垢だから恐ろしい。
何もかも白で覆い尽くして、時を止めてしまう。
最後は溶けて消えていく。
彼も共に消えてしまいそうで、雪と一緒に消えそうで、恐かったんだ。
end