シナリオ

□なかったことには、もうできない。
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アンタに感じていた感情は他の人とは違った。それは、アンタが俺より強いからだと思ってた…



そう、あの時までは



「手塚部長、まだ残ってたんッスね…」

「お前もな、越前」



部活は二時間ほど前に終わり部員は全員帰ったものだと思っていた。けれど、部室にはまだ部長の姿があった。



「部誌…?あぁ、今日は乾先輩休みだったから。代わりに書いてるんッスか?」

「あぁ、そうだ。気にするなこれも仕事だ。」

「ふーん」

「越前も早く帰るんだ、もう夕方も暗いからな」

「はいはい、わかってますって」



子供扱いされるのがいやだった。部長だけには…



「ならいいが…」

「…ねぇ、手塚部長…ドイツ行くって本当なんッスか?」

「誰からその話を…」

「こないだ、話してるのを聞いただけッスよ…」

「そうか…その話はほとんど纏まった。」



…何だろう心がもやもやする、この気持ちはなに?



「…っそうッスか、お土産頼みますよ部長。」

「考えておこう。部室に鍵をかけるから帰るぞ。」

「…ッス」



居なくなる?部長が?…どうして、こんなに苦しいの?

「越前?どうしたんだ?」

「なんでもないッスよ、」

「?…そうか。」



俺がこの人のことを…好きだから?



「っ…部長、頑張って来て下さいね。次は全国ッスから。」

「ああ、そろそろ暗くなる帰るぞ越前。」

「ッス…早く、鍵戻しに行きましょう…」



気づいてその気持ちを自覚してしまえば、それは現実になる。



「そうだな、行こうか。」

「はい…」



なかったことには、もうできない…






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