ぎんたま
□ホント、甘え下手な人ですね。
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「山崎、入るぞ。」
「あ、はいよ。」
…また書類の手直しか備品買い出しリスト作製の手伝いかな…
副長が俺の部屋に来る時、それはもう大量の仕事を持って来る。
こう言うと皆、可哀想だとか、御愁傷様だとか言うが、全くそうではない。
実はそれらの仕事はもう殆ど終わっているのだ。
では何故、副長はそんな事をするのか、それは…
「隊長クラスの奴等に渡す書類の製本手伝え。」
「はいよっ」
案の定殆ど製本を終えた書類の束を持ってきた副長は机に向かっていた俺の隣にそれを置くとそのまま俺の背中に回り込み、抱き付いてきた。
「山崎ー」
「はいはい、なんですか副長。」
俺は言われた通り渡された書類の製本をしながら適当に返事をする。
この量なら10分程度で終わるだろう。
「…やまざきー」
「なんですかー?副長。」
「……さがるー…」
副長は俺を名前で呼んで、あたかもお前も名前で呼べとでも言うかの様に抱き締める腕を痛い程に強めた。
「ちょっと痛いですよ十四郎さん。なんかあったんですか?」
「…何もねぇし…何でもねぇし…」
あ、ちょっと機嫌良くなった。
やっぱストレス溜まるんだろーなー。
最近毎日部屋に籠ってデスクワークだったからなぁ…。
「さがるー仕事いいから構え。」
「はいはい、コレ終わったら好きなだけ構ってあげますから待ってて下さい。」
「やだ。今、構え。」
「もーこの仕事持ってきたの十四郎さんでしょう?あと少しで終わりますから我慢して下さい。」
「じゃこのままお前やれ。」
「もー仕方のない人ですね…」
いつの間にか俺は副長の膝の上に座っていて、副長は俺の肩に顎を乗せて作業する俺の様子を見ている。
「さがるー」
「なんですかー?」
「…退が好きすぎてなんかやべぇ。」
「何言ってんですか、俺の方が好きですよー」
「いーや俺だ。」
「俺ですー。」
「俺なんかすきを通り越してあいしてるもん。」
「もー…恥ずかしい…ホントに十四郎さんは甘えん坊さんですねぇ。」
「…うるせぇ。」
「こんなに甘え下手な人、そうそう居ませんよー?」
そう、副長は何かしら理由をつけないと俺の部屋に来れなくて、更に一方的で自己中でツンデレで。
そんな甘え下手で、ストレス解消の捌口にされても全く構わないのって、やっぱりどう考えても俺の方が副長を好きだ。
無駄な争いになるから言わないでおくけれど。
「さがるーあいしてるー。」
「はいはい、俺も好きですよー。」
「…お前なんで言ってくんねぇの…?」
「こんな仕事持って来ないで言えたら俺も言いますよー。」
「…考えとく…」
そう言いながら無理矢理擦り寄って来て、髪の毛が首に掛かって酷くくすぐったい。
「ちょっと十四郎さんくすぐったいですよ!!」
「うるせぇ。」
嫌がりながらも本当は満更でも無い俺。
あぁもうこんな副長が大好きだ畜生!!!
何が鬼の副長だよ子猫じゃん!!
今まさに小動物じゃんこの人!!!
俺だって好き通り越して愛してるよ!!!
副長が俺の部屋に来て仕事を押し付ける理由、それは俺に甘える為。
そして実はそれを楽しみにしているなんて、言いたくないし、言えないなぁ…
おわれ