The god, please mete out punishment to me.

現在地、並盛中学校屋上。






もうとっくに夏特有の踊り狂うまでの暑さは感じられなくなった。それどこれか、温かい涼しいを通り越してしまったと思われる程の冷たい風が流れるそんな季節。
それでもいつものように世界は流れて、蝉も死んで鳴きやんでこんなに世界は変わってしまったのに流れは変わらないから、まあ僕らしくないけど残酷だなんて。
そういえば、とその話で思い出したのは自分の兄弟の顔だった。

いつも一緒なわけじゃない。
むしろそばになんて殆どいない。
それでも何かある度に思い出してみるのは自分の弟、綱吉の顔だった。
とくに好いてはいないのに。
その殆ど合わない時間でさえ、ちょこまかと付いて来てにこにこと笑って不快を僕に味あわせることがないように気を使って振る舞う。
そんなあの子が苛立たしかった。
まるで僕を怖がるかのように怯えているかのように笑いを漏らすから、すごい嫌だったのだ。
取って食おうとなんて思って無いのに何をそんなに嫌がるんだ。

そして、今日もこの世界の流れのように何も変わらずに、君も変わらずに、ただ何かから逃げるように困ったように笑っていると思っていたのに。
だから君にこうやって屋上に素直に呼び出されて何をしたいのか聞いてあげようとしたのに。
いつもの笑顔はそこにいなかった。



「おにいちゃん、ばいばい」



悲しそうに瞳を潤ませた君は小さな声で呟けばそのまま踵を返した。君から僕のそばを離れるのは初めて。
屋上の日の陰りそうな赤い世界に、君の後ろ姿が、赤く染まってから影で黒くなり、小さくちいさくなっていく。
彼が精一杯の意思表現をしようと考えて、この僕に、押しつけて帰ったものだけを僕の両手に掴ませて帰ったものだけを、間違なく見届けてから。

「なにこれ」

手に握っているのは封筒に入った手紙だった。封筒を開けてみれば女子が使うようなキャラクターの付いた便箋いっぱいに字がしきつめられていて二枚。きっと便箋は貰ったのだろう。
思えばどこか揺らいだ意思と軋んだ心臓に眉をしかめる。わからない。そう、たまに、感じる、この胸の痛みがなんなのか、僕にはわからない。
(それはこわくて)(こわくてわからないふりを)(しているだけじゃないのか)(ねえ)

(逃げてるの?)

たまに語られる気がして気に食わない自分にそっくりな声。お前は誰だ、なんて、わかってるこれもわかってるくせに。
逃げてなんか無い。
誰に言い訳をしているのか結局定まらないままガシャンと音を立ててフェンスに寄り掛かればやって手紙を見た。
小さい字を、下手くそだからそれとも泣いていたのか歪んだ字を。

「……長いよ綱吉」

今いない相手に文句を呟く。
泣き虫な君にそんなこと言ったら泣くだろうから目の前では言わないけど、そこに書かれているのは当たり前のことだった。
綴られた質問さえ本当は自分で答えは見つかっていたんじゃないだろうか。

(なんで俺たちは兄弟なんかなんですか)
(どうして俺は後に生まれたんですか)
(なぜ俺より先に生まれたんですか)
(俺は貴方のそばにいれないんですか)
(おにいちゃんはおにいちゃんでしかないと思わなきゃ駄目なんですか)
(ふたりで死んだら生まれ変わったら一緒になれますか)

それは、どうしようもない事実をただ語られていて、あの子が僕に何を伝えようとしてるのか僕に何を感じて欲しいのか、まだ明確には絶対にわからない文。
だが、一枚目を捲って二枚目を上からまた見ていけば、どんどんヒートアップする質問とまるで狂ったその言葉に寒気がして息を呑んだ。

(意地悪されたら仇をとってくれますか)
(でも俺は貴方が殺したい人がいたら止めますおにいちゃんの手を汚したくない)
(だから俺に言ってください俺が)
(俺がころしますから)

彼はまるでネジみたいに、どこかが外れてしまったかのように、とにかく止まらずに書いたのだろう。隣りの字と何文字か繋げ文字になり初めている。
いまだに背筋を巡るぞくぞくとした感覚につい指先を見ると、さながら怯えるあの子のように震えていて、苦笑いが漏れた。
何に怖がってる?
どれから逃げてる?
受け取るのが怖いのか。
彼のこの何があっても揺らぐことのない絶対的で外見荒唐無稽な魑魅魍魎も伊達じゃないこの狂った愛を。

最後まで、彼の話は僕と世界を攻めて責めて終わりかと思っていた。
それでも読むことが止めれず最後まで行き着けば、こくんと小さく音を鳴らして息を呑み、最後だけ、必死な字体は脆く崩れ、
まるで何かに怯えるかのように
か細い震えたその字に
見とれ見つめた。



(俺が死んだら貴方は悲しんでくれますか)



それは自分には絶対にわからない問題。
(貴方は俺が好きですか)
いつも好きだと言っているのに。
(どれぐらい好きですか)
弟なんだから可愛い、ぐらい。
(俺より好きな人はいますか)
僕にはわからないよ。

不可疑問も疑問も全て予測のできる範囲の質問で、僕に聞いて僕を責めて、まわりが嫌だと世界を責めていたのに最後だけは。



彼に予測することはできない。
故に責められるのは彼だ。





next⇔be together.

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