(お前にあいつが死んだ後にあいつが知らないところで世界がまわり動くのに耐えられるのか?)



なら記憶は戻らないでも愛せ
お前なんて愛されて無いでも愛せ
あいつはもう何もできない、でも、愛せ

なんて、軟論吐いてしまいたくなる。
相手の言葉が不当では無いから軟論では無いのか。でもだって考えたくなんてない。
とりあえずもう、僕が彼に触れることができる時間が体温を感じ取って涙を拭える時間が無いのだから今だけは、誰も邪魔しないで欲しい。

元から色白なのに更に色白、青白くて蒼く、しかもいつものアルカイックな微笑みも無くただこちらを見つめていて、僕を見つけてから蜂蜜色の睫毛を伏せて切なげに細められた星目にかかったキャラメルが苦しかった。そして伸ばした掌に重なる筈の優しい貴方の頬が冷たくてそれがまた苦しくて、どうしようもなくなった。
それでも止められなくて合わせたその頬を引き寄せて唇を合わせる。
思い出が脳裏に一気に流れて涙が溢れ出した。情に絆されたのか無意識に必死になって好きだと、聞いて欲しくて、まるで奏上するかのように唇から言葉が漏れていく。
それは喪失していくかのようにその言葉はぽろぽろと落ちて空気に消えていって、掴みとろうとしてもそれはもうどこにもなくなる。
どんどん無くなっていく言葉に比例して想いが溢れて零れてそれでも止まらない止められない。
錵柄の細かい粟粒に、錦紗みたいに、金糸がまわりにくるくる回されたみたいな柄が施された季節外れの、似合わなく僕が勤苦して夏祭りで掬ったりゅうきんやわきんが入った金魚鉢が視界に入る。宵待草な月見草が、愛らしい花びらを揺らす。
ぱちゃんと水音が耳を突いた。
生きてる。生きていた。
それは金鵄なんかより僕にとってはずっと金玉の生き物で、貴方と僕がいた、一緒に生きていた印だった。

「つなよしくん」

呼んだとしても名前なんてわかってくれないとわかっていても、呼べばこちらを見てくれるかも知れないだなんて馬鹿みたいな期待して、でもわかっているからこの僕に似気無いものの知るのが辛くて彼に似合わしくないその冷たいキャラメルの甘さが一番目立つ瞳を隠す為に、瞼に口付けた。
肉色さえ見えない貴方にさえ、赦されることが無い、与えられた世界には許されることが無い肉情が肉欲が、背筋をぞくぞくと駆け巡って。
それを、どれだけ成長しても変わらないベイビィフェイスの和毛に頬を合わせて、耐える。

と、不意に首に腕がまわった。



「……むくろ、」

怯えたような声が、耳に届く。
一瞬何かわからずに固まるものの、忘れる筈無い忘れたいのに忘れない、幼年のような幼さの混じった優しい、なのに母親に怒られる赤子のような気持ちにさせるその声音に、目尻に熱が溜まる。
つい身体を離して顔を覗き込めば、見開いた眼は空間を見つめていた。
キャラメルに透明の膜を張って下睫毛に下瞼に血液を溜めてそれが耐えられなくなれば、頬を伝わせて、床に落とす。
唇がひくりと震えて、涙で唇を濡した。

空虚をただ見つめるだけ、つまりは意識的では無く、無意識に言葉が紡いだのだ。
嬉しかった。
僕の名前を呼んでくれる貴方の声をもう聞けると思わなかったのだから。そんなこと望んでいなかった、無理だとわかっていたからである。
でもそれと同じに苦しくなった。
花落ちしたかのような気持ちに胸がいっぱいになって、希望なんかを隅に抱いてしまったから。
彼が自分を、言語を、理解していないのは、理解ができないのは変わらない。
変わらない。

と、それなのに、虚ろに空気に名前を呼んだ筈の貴方はこちらを向いて、いた。
一瞬きょとんとキャラメルを丸くして不思議そうにするものの、そこから流れる涙は止めど無く、栄養を接種していない身体には困ったものだ貧血になる。
すぐにばちりと視線が合って、彼はやはり一度固まった。

そして満面であの抜けたような、
心から幸せそうな笑みを、見せた。

何時ぶりだろうか。
彼が笑うなんて、そんなの。
何度も夢に出て何度もフラッシュバックして何度も焼き付いたそれが剥がれたことなんてなくて、
知らぬうちにまた、頬を水がぼろぼろと伝う。想像なら恣でしょうと必死に彼が自分に微笑むことを望んでいた。

「つなよしく、ん」
「すき」
「僕も、すきです、綱吉くん」
「むくろ、すき、だいすき」

心底嬉しそうに幸せそうに微笑む貴方の言葉を信じていいのかなんて、わからない。だって貴方に質問したところで意味が理解できないから。
でも言葉さえ知らぬ筈の赤児の貴方がこちらを見て甘い甘いパステルカラーの世界を広げて、真っ白な雪の肌に透き通ったの雨を降らせて、蜂蜜色のキャラメルを優しく揺らめかせて、笑った。
僕のなまえを呼んだ。



すきだと、言った。



世界の果てまで貴方について行く理由は
それだけで十分でだった。






切刹哀苦、
されど淫美な夢物語

(これがもし都合の良い妄想や)(夢だとしても)(心から)(幸せだと思うなんて)







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