きい、と響いたのは自動車のブレーキの音。走り出した足は止まらなくて、とろくてのろのろ歩いて、そんな危険を無視していた馬鹿みたいな子猫と血縁なんて皆無だろうに飛び出してきた白猫目掛けて自動車のがの下りるのを目に入れれば、まるで自分で轢かれるかのように飛び出す。それは少し気持ち良かった。

ふいに甘い香りが身を包んで、君の瞳に僕が映った。
夢現に煌めく世界はしっかり歪んで、あまりに綺麗に微笑んで。
ゆらゆらゆらゆら。
ゆらゆら。
視界がゆらゆらと。



「なに、やってるんですか」

震える掌は嫌に鮮明に見える歪んだ視界に揺れて、僕の顔を包み込む。優しい体温とあまりに暖かい温もりに苦笑いを漏らして、今にも泣き出しそうなその君の瞼につい口付ける。白い肌を伝う涙はひどく官能的で、どうにもこうにも愛しさしかこみ上げてこない。
瞬間、君は長い睫毛を濡らして瞳を閉じて開けて。ゆっくりと瞬きをした。

「雲雀さんって、意外にお人好しだったんですね」
「猫は人じゃないけどね」
「違いますよ、お人好は人が良いって意味です」
「言ってみただけ。もう聞けないから」

その言葉が嫌に響いたのかもしれない。
涙を流しながらもどこか平然を装っていたはずの彼の瞳は憂いを増して、瞳から色の無い透き通った血液がぼろぼろと流れ出た。



「馬鹿ですよ」
「綱吉に言われたくないね」
「俺まだ雲雀さんに告白して無いのに」
「何それ初耳なんだけど」
「言ったことないですもん」
「馬鹿でしょ君」
「貴方に言われたくないです」

言われたくない、です。
小さな声で二回繰り返してから細くて今すぐにでも脆く崩れてしまいそうな首に腕をまわしてきた。
いつもは怖い怖いと血や傷ら逃げて五月蠅いのに、べちゃりと赤い液体が服に付着していたそれさえもう気にもならないようで。
その腕も優し過ぎて怖かった。まるで夢を彷徨っているようで。
ここは、夢現なんかじゃないのに。
ここは現実なのに。
そう思いそうで怖かった。

また、ふいに甘い香りが花を霞めた。僕の嫌いな香水のキツい香りでも無くて、花のようにあまりにも淡い香りでも無くて。
その香りが強まる度に赤い液体はどくどくと心音と共に流れ出る。



「…じゃあ、最後に聞かせてくださいよ」



もうまわりの音も聞こえなくなってきた自分の耳を深く犯す声がそれのみがただ揺れて響いて君と僕だけの世界それは、

「お人好しなんかじゃないなら、なんであの猫、助けたんですか?」



笑いが漏れて終う程、幸せだった。



(そんなの聞くまでも無い)
(君だって本当はわかってる)
まるで白猫が君のようだったから。












You whom I want to meet there are not any longer.
so,even if my eyes wake up.

I cannot surely meet even a white cat any longer.








end

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