(どうか、迷える子羊の願いを叶えて)























「誕生日おめでとうございます」

俺の大好きな病室。
何度来たことか。もうあまりに過ごし過ぎて、見知らぬホテルに泊まるよりは、いくらか過ごしやすいそんな部屋になってしまった病院。
そんな場所でベットに座る俺に優しく微笑んだ貴方は、にこおと子供みたいな満面の笑みを浮かべ直せば、まるで押し付けるような動きで嬉しそうに両手に抱えた籠ごとお菓子を俺に渡してきた。
キャンディーにチョコにガム、グミにラムネにマシュマロにビスケットに、ドロップ、ウエハースやキャラメル。
籠いっぱいの甘い甘いスイートを見つめた俺は貴方のきらきらと嬉しそうに輝く瞳を見上げた。

「リボーンに、身体に悪いって怒られる」

昨日だって、もうすぐハロウィンなんだからいいだろってリボーンの持ってたチョコを食べようとして殴られた。故に食べれないようにとか手まで縛られている。
すると貴方はにっこりと笑って大丈夫ですよ、とその中に入っていたドロップを自分の口に入れてもごもごしながらチョコを俺に差し出した。

「了承は得てきました。誕生日くらい好きにさせてやると言うことです」

だから、ね?、と首を傾げる。
だが俺は手が動かない。

「縛られてるの」
「あーそうですか」
「でもって顎の筋肉上手く動かない」
「それはそれは、じゃあ」
「うん、だから口移しして」

悩んだような素振りを見せていた貴方はきっと、縄を解いてあげますとか言おうとしたのだろうけど、俺はそんな言葉を聞く前ににこりと微笑んで言った。
きょとんと目を丸くしてフリーズした後、貴方は直ぐに苦笑いを漏らしてチョコレートの包みを開く。

「何時に無く甘えますね」
「お菓子食べたいだけ」
「じゃあ僕じゃなくても良いですか?」
「ば…ばかっ、あたりまえだろおまえなんかじゃなくても俺はべつにな…」
「はいはい、じゃあそういうことにしてあげますから黙ってきださいね」

そのチョコレートをぱくりと口に含めば俺の頬を両手で包む。
急の行動につい目を丸くしたが自分が望んだことの為順応は早く瞳を緩く閉じて舌を出してねだった。
ちゅ、と可愛らしい口付けの音を鳴らして唇を会わせれば舌に舌が重なる。熱い相手の舌に溶けた甘いチョコとそれに交ざった熱い唾液に頬が熱くなる。
普段は素直にキスをしてだなんて言えないから。お菓子が食べたいと言う理由だと自分の心に言い張って必死になって自分から舌を絡めた。

「ん、はあ…、ん、っん」

口の端から漏れるお互いの吐息が熱くて息が苦しくなった。甘い甘い香りが部屋にまわって充満していく。
我慢できなくなり、既にチョコなど無くなった相手の口内を舐め回すかのように何度も舌に緩く噛み付いて求めた。

「っ……んはぁ、あ、はぁ…」

ついに酸欠になり俺は小さく咳き込むが貴方は何も疲れていないようで。
いつもの優しいのか企んでいるのかわからない、全て見透かしたかのような、俺の考えていることを知っていて楽しんでいるような笑みでこちらを見つめていた。



「ビスケット、食べますか」



ぺろりと表面をひと舐めして首を傾げる。
妖艶に歪ませられた唇が、普段はいやらしくてにくたらしいのに、今はあまりに綺麗でそそられて、

「ちょう、だい」

と言い終わる前に貴方はぱき、と音を立ててそれを口の中に含めば、俺の頬に頬を猫が甘えるかのようにすり寄せて耳に音を立てて口付けてくる。
耳に響いたその粘膜質な背筋を震わせる音に眉を寄せた。
近付いただけでどくんどくんと鳴る心臓はどちらのものかもうわからない。
こつんと額が合わせられてから唇がまた重なって、重なってから貴方は少し離れた場所で緩く唇を開いて舌を出して見せて、それに釣られるように俺は背筋を伸ばして舌を合わせる。

「むく、ろ…む、っん、ん…」

ぴくっと身体が跳ねるも繋がれた首輪と縛られた腕にどうしようもなく声を上げて相手をねだる。
貴方を感じる感覚があるうちに。
この寒気さえもが美しく感じるうちに。
これは俺からのお願いなんだよ
あのね、
子羊は願いました。貴方の願いが叶うようにみんなが苦しくて消えても貴方は幸せになれるように、精一杯願いました。
世界が歪んでも自分の世界が残酷に醜く動き始めても自分の幸せを捨てて貴方の幸せを願いました。
あまりに美しい貴方を子羊は見ることができずに、逃げていて、それでも心の底から願っていたの。本当は貴方に愛されたくて、貴方がいればよくて、貴方が必要で貴方がいなければ世界なんてどうでもいいだから、どうか愛してくださいと。
最後までわからない。
本当に貴方が俺のことを愛してくれているかなんて、怖くて聞くことができなくって、ただただ求めることもできずに、でも今日は特別だと貴方が言ったんだから願い事を叶えてください。

なにより貴方の幸せを願ってる。
だから、

理性を飛ばして俺を壊して。










(この露命、全部貴方に捧げるから)

Congratulations on the birthday.
And, good-bye.
Your wish is eternal.




end

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