「つなよしくん」



真っ赤な部屋に嫌なくらいに脳に響いたのはその音。勝手にベットに座り込めばにこりと笑うも頭にまわっているのは甘い程に空気を湿気らせ、侵して犯す雨音とともに赤を薄める今有る、貴方の涙。
ぼろぼろと瞳を歪ませ桃色に滲んだ涙を流して唇を噛み締め、僕と相対する形でこちらに俯き立ち尽くしていた。
もともとは貴方の部屋の床に這っている血は貴方の、抵抗などせずに僕を見た瞬間その場で微笑み汚(怪我)された貴方に、寒気が走る。
傷付けにきたとわかっていながら貴方は微笑んだりして、もっと愛を請えばもしかしなくても僕は貴方などさっさと殺してあげたのに。

死んだら愛してあげると約束して。



「なんで、笑うんですか?」

傷付け額やこめかみに首筋に頬、所々に傷付いたその顔で何故か貴方はまだ緩く微笑んでいて。
困ったようなその笑顔は、不思議なくらいに心臓が揺れた。

「骸に久し振りに会えたから」
「傷付けられるとわかっていながら」

暑い筈の季節に似合わないあまりにも冷たい空気に死気ていると頭の中で溜め息を吐きながらも足を組んで、余裕など今は1ミリもありやしない自分に嘘を吐くかのように余裕ぶって笑った。
そんな僕を見た後何かを言おうと一度口を開いて戸惑い、もう一度開いて貴方は静な声音で、呟くかのように、言った。



「俺は骸に触れて貰えるだけでいい」



それは、あまりにも静かで。
静寂した世界にまで不釣り合いな程目立たないその声は、消えるかのように耳には残らなかった。

残るのは、甘い甘雨音だけ。



「なにがそんなに」

口を開いて出た声は貴方に似合わず嫌なくらい反響して聞こえた後また聞こえる。もう一度と繰り返すように耳に入ったその声は、揺れていた。
また静寂に包まれる。
もう耳には雨音さえ甘音さえも入ってこない。脳内を犯し空気さえも包み込みいつまでも耳には残らず巡るように繰り返されるのは、貴方のその、音。
まるでひとつの曲のようにサビだけが流されるかのように貴方の音が身体の隅から隅までを這って



「なんでそんなに、君は僕に傾いて」

僕は揺れて歪んで傾いてまた揺れて、
こんなのまるで、
(シーソーゲームみたいに)



「あいしてるの、むくろ」



──貴方には、勝てない。
いつも傷付けるのは僕なのに後悔してその素肌に耐えられなくていつも泣かせるのは僕なのにその涙を拭いたくなる。
傷付けたら忘れられると信じていたのに。嫌いに為れば忘れられると信じていたのに。やはりそんなことはなくて。

いつもいつも
なにがあってもどこにいても
すみからすみまで、忘れられない。
いつもいつも
思い出してしまうのはこの心を、
無意識に犯して逃げた、






あ、なた だ け。











orend.完熟

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