思い立つ前に走り出していた。
駄目だ、駄目だめだめやっとわかった本当は初めから気付いてた見ないようにしてた君は死のうとしているんだろう?
だからばいばいだなんて。
僕が君を好きなのか。愛しているのか。確かめる為に、僕が君が死んだら悲しむのか君が消えたら苦しむのかそれがどれくらいなのか。

そんなことわかりきってたことで君にはわからないことでもわかりきってたことでそれはとてもとても、

「綱吉!!」
(かなしくてくるしいよ)



君はフェンスの破れた隣り校舎にいた。
誰かが通る為に無理矢理こじあけられたと見えるかなり昔から補修されないそこの外に体育座りで座っていた。
僕が出て来た扉の方向に首を少し傾けて、君は顔も見えないまま、口を開く。

「場所もわからなかったのに来てくれたんですね、おにいちゃん」
「来ないと思ったの?」
「いっぱい思ってました」
「それは心外だね」
「だって貴方は俺を嫌いな筈だから」

次がれた声は潤んで揺れていて。
日が落ちる。暗闇に反応した蛍光灯がぱちぱちとはためいてからついて目を眩ませてきた。
僕は足音を立てて、躊うことなく君に近付けば君は身体を外見からも強張らせて震えた弱い声音を漏らした。

「あんな手紙見たんだもん。おにいちゃんは俺が怖くなって逃げ出す筈なのに」
「馬鹿にしないで、怖くなんか」
「嘘吐きだね。貴方の為に人を殺すなんて人間が怖くない人間はいません」
「じゃあなんで、あれを書いたの?」
「全部嘘じゃなくて俺の気持ちだからですよ」

空気がぴいんと張って二人の間に沈黙は流れたのに、世界が醜くぐにゃりと歪んだ。眩暈がする何に対してかはわからないだけど確かに眩暈がして例の寒気もろもろが止まらない。
きみをころしたくない。
しなせたくない。
(それは嘘なんかじゃない)



「綱吉」

もう君の真後ろにいた。
フェンス越しだけど、振り替えればなんだか君はすごく嬉しそうに笑った。

「おにいちゃん、死のうよ」

ねえと続ける声は瞳と一緒で何故か冷静で冷淡で意思など無いみたいな。
そんな優しさも心の強さも無いだなんて、君に似合わな過ぎる無感情で、淡々と喋られれば動悸はばくばくと激しくなって、どうすればいいかこの僕が、この僕が、どうすれば良いのか迷った。

「それか、俺たち以外の人間、みいんな殺しちゃいましょうよ」

彼は僕の手をフェンス越しにぐいっと引いて僕はフェンスに寄り掛かる形になる。
次がれ言われた台詞さえどこか朧気に憂いを帯びていて幸せそうに微笑む君に、反論さえ、文句さえ、言えない。

「だって、貴方に近付く人間なんて誰もいらないんだから」

いらない。
それは製造者への冒涜だよ綱吉。

「みんなみんなみんな邪魔でうざったくてだって貴方だって群は嫌いだって」

少しずつ荒くなる口調には微かに憎しみが込められていて、なのに僕の目の前で手を握る君の顔は泣き出しそうに歪んで、既に瞳に溜まった涙は零れようとゆらゆら揺らめいていた。

「だからいいじゃないですか、ふたりだって他の人間が消えたってみんな死んで俺たちだけ俺たちだけ!」
「綱吉」



やっと喉から声が出た。
ぴたりと君の唇が紡いでいた間のない台詞も簡単に止めることができた。
震える手のひらを一度ぎゅうと握った後で穴を通らずフェンスを登って下りて、君の隣りに立った。

君は君らしく、
何かに怯えるかのようにこちらを見て。



「綱吉、本当は嫌でしょ?」

ぴくんと身体が反応を示した。
それは何かに対しての肯定のしるし。

「友達が死んでまで僕と一緒にいたいわけじゃない」
「それは違います貴方がいれば俺はそれでいい」
「みんな死んで何が残るの」
「おにいちゃんと俺が残ります」
「君と僕?それは君にとって幸せ?」

と、そこまで言って自分はどうなのだろうと自分はどうなんだと自身に聞かれた。
だけどここで幸せだと言ったら、
それはおかしい。
のに、
嫌なんかじゃない、
なんて。
(この感情がわからない)
(駄目だ逃げるな)
(ちゃんと)
(受け止めれば)

(こわくなんてないよ)



「俺は…」
「綱吉」

遮られた言葉にここは自分のターンだと思っていたらしく、どうしたのかと彼は目を丸くした。
駄目だここは彼に言わせて彼のせいにしては、いけない。
それで逃げて全部彼のせいにして、そのままじゃ僕らしくないし、

それこそ幸せなんかじゃない。



気付いたのが今更でごめんね。
傷付かせて狂おしい程に人を憎ませてしまって、人を嫌いにしてごめんね。
本当は優しい君だから、あんなこと言うの心のどこかでは否定したろうに、

ごめんね。



「僕は君にちゃんと言わなくちゃ、いけないことが、あるんだよ」

物語の幕は出会った時に開いて、そこからもうはじまっていたことを、僕は見ていなかった。閉まり掛けたドアを無理矢理こじあけて、いいだろうか。
否、それは決められたことじゃなくて、答えなんて見つからない、故に責められるのは僕だから、
君を別に好きじゃないだなんて餓鬼みたいな言い訳と泣き言は前言撤回。
心置きなくこじあけて、世界とやらに責められてみようか。
さあ、ぼくの
僕のの可愛い可愛いつなよし。



(ふたりで死んでしまいたいくらい)
(世界でいちばんあいしてる!)







Everyone must die.
It is awful?

Then,Let's die only by me and you!





end

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