∬:愁い香りの花のお題1







(嗚呼まるで)
(まるで君みたいだろう)



鳴かないでいなくならないで、
ここからいなくならないで。


僕の、僕の椿。

















白い壁白い天井白い衣服白い白い白い
ただ白い嗚呼なんて白いこの世界



「寝てるの?」



それに似合わず君の横たわる後ろには真っ赤な椿が零れ落ちそうに咲いていた。

なんて綺麗な花だろうねと心で嘆いた。
なんて儚い花だろうねと心で呟いた。
赤い花はいい。
まるで生命を奪ってるみたいで。

それでも君のそばにいたらこんなにただのちっぽけな、だけど、



「起きてますよ」



小さな声で呟くもその声は凛として、安心したんだかほっとしたんだか、
残念だったのか。

緩く笑えば君のそばに寄った。
近くの椅子に座れば何故かイライラする。

此の椅子には誰もが座った。
あのいけ好かない奴等が君の為に

意味はないと見せかけて立ち上がれば君の寝るベッドに座り直して部屋に似合って花に似合わない白い肌の顔に触れればふるっと君は震えて

その冷たさに自分が震えた。



「くすぐったいですよ」



次に少し掠れた声で言えば咳き込んで
嗚呼、嗚呼、やめてくれないかい
なんでこんなにギシギシ、と、



「ごめんなさい」



ためらい無くそんな台詞吐くくせにそんな苦しそうな顔して馬鹿じゃないの。
我慢してるの?
僕だから。

ギシギシミシミシ
痛い痛む苦しい、心臓が軋む。



「なんで、泣いてるのさ」



ぼろぼろと瞳から流れる涙を
拭う勇気がない。

笑ってしまうね、此の僕が自信なくて、
人に触れるのが恐いだなんて。



「ヒバリさん」



また、蒸せた為か泣いた為か掠れた声が小さく響いてこちらの目頭が痛くなる。

なにかと聞き返そうにも声が出なかった。



「明日、手紙、渡します」



濡れた頬のまま恥ずかしそうに笑う。
その笑顔は、ギシギシと

なんでそんなに、痛ませる?
なんでこんなに、哀しくさせる?

なんでなんでなんで、なんで!



「読むから聞いてください」



でもその約束は、破るハメになった。














次の日、目を覚ませば君は、
冷たかった。

昨日と比べられないくらいに。

涙腺からわき出そうなそれを約束破った君なんかに絶対に出してやらないと押さえて君の手を握れば、僕が寝た後に書いたらしい手紙を手に持っていた。

カサリと渇いた音が部屋に響いてそれを取れば、片手で君の手を握り片手で開いた。
字を書くのも辛かったろうに
その手を震わせて書いたんだろう

揺れた文字が心臓をまた締め付けた。
開いた途端に頭に傷みが走る
勘弁、してくれないかい

これ以上、
熱いものを込み上げさせないで。



ヒバリさん


おれはもう、きんにくがちゃんと動かないそうです。

だから、いっぱい書けないし言えませんけどおれは、これだけしか言うことないとおもいますから、きいてください。

ヒバリさん、
あなたのことがおれはもう


















しんでもいいくらい、すきです。


















何人もの人間が冷たい綱吉に会いに来た。
そして何人もの人間が、絶句していった。






僕は
その手紙に、答えを付け足した。
















『僕も、君のことしんでもいいくらい好きだったよ』


















花の椿はボトリと首を落とした。


・・・・・・ ・・・・・
ふたつの死体を染める赤と同じように
その真っ赤な屍体に染められたかのように






誰もがそれに、
触れることなんてできなかった。



















rcyiEND

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ