初めて、会いに行った。
貴方は珍しく見たことないような顔でぽかんと口を開けてその後、嬉しそうに、笑った。
(その笑顔が欲しくって)






+南風+






この季節に外に出るのは全く気持ちが悪いとしか言い様がなかった。

空は戸惑いなく晴れていて、俗に言わなくとも誰が見たって普通に「いい天気」
なのに甘ったるい匂いがこの生暖かい風に乗って、涼しくもならない癖に汗で張り付いた服と肌の間を寝息を立てて流れていく。

この匂いはなんだったろう。

彼に出会った時にもこの鼻にのし掛かるような重い匂いがやはり生暖かい南風に乗って此所までやってきた。
どこまでも辺り一面に広がったこれはまた来たんですかと迎えてくれているのか、それとも同じ台詞で追い返しているのか。

今確かなのはあの時教えてもらったこの匂いの在処、

つまり花の名前を思い出せないことだけだけだし、
やはり気持ちが悪いとしか言い様がないかもしれない、でもこれは彼と出会った思い出だと考えれば嫌な気もしないなと思った。



彼の家に自分から来たのは初めてだ。
インターフォンがあったけど無視をした。不意打ちで千種に会うかもしれないし、犬に会うかもしれない。
…まあ、なんてのは言い訳で貴方にただ早く会いたかったんだとか、とても恥ずかしくて言えやしない。

こつんと小さく音を立ててたったひとつの知っている扉を叩いた。

中からは声はしなかったけど、多分いる気がする。
確信なんかないけど、なんとなく。
骸のことならわかるとか言わないけど、思い切り扉を開ける。

ごん、と嫌な音が鳴った。

きいいと耳障りな雑音が続けて鳴った後に扉が開くと、目の前には額から血を流した彼、貴方、いや、骸が目を見開いてぽかんと口を開けて立っていた。つまり最初に戻る。

そして、そこからオレは苦笑いも笑いも堪えて片手を顔の横にやってできるだけ平然そうな顔をして口を開いた。
(多分表情は相当歪んでいたと思う)

「久しぶり、元」

ずどばたどかっ!!
と、その前に押し倒された。
つい眉根を吊れば腰に腕を巻き付けている相手の頭を掴んでこちらを向かせ、怒鳴ろうとする、と

「むっ…く、何すん…」
「綱吉くんっ!!」
「うわぁっ!!」

泣きそうな顔でまた抱き付き直されて言葉は中断されるが愚か廊下に上半身を出して下半身を部屋の中にいれるという間抜けな格好で他の二人にも出くわすことになる。

だが、二人とも久しぶりの再会なのににこりともせず疲れたように溜め息を吐けばそれぞれの部屋に行ってしまった。

「関わるのが…めんどい」
「今日は同感れすねぇ」
「なら放っておいて下さい」
「って助けろよ!!」

叫びは広い廊下に消える。
叫ぶ為に吸った息の甘さに噎せて、こんなところにまであの匂いがと顔を歪ませるが、

違った。と気付く。

こんなところにまで、じゃない。
ここから発せられているのだ。

不思議そうに首を傾げる相手をぐい、と押し返して自分でもびっくりするくらいの勢いで中に入った。部屋全面に、開化した

薔薇百合。

アマリリスのように真っ赤に染まった、血の赤。朱色しか存在しない筈の薔薇百合が有り得ない程美しく、血にそまっていた。

「薔薇百合が好きなんですか?」
「…だって、骸の色だよ」
「赤色が?」
「血の色だよ」
「僕の色だから好きなんですか?」

と、やってしまったと息を飲む。今、自分で貴方が好きだと曝してしまった。恥ずかしい、恥ずかしい恥ずかしい。
相手の瞳を覗けばそこはまるでガラスのようで、こちらを静かに反射版になり写していて背筋が凍る。

心が、見透かされてるみたい。

もしかしたら、この気持ち、全てバレているのかもしれない。貴方のことだから、わかっててからかってるのかもしれない。

嗚呼時間よ止まれ!
彼の瞳にオレを写すな。

無茶な話だが、それくらい骸の瞳はその物をただ綺麗に反射していて、本当に大事なものしか見ていないようだった。それに自分が写っているなんて自意識過剰だけど、それでもドキドキした。

「嬉しいですね」

本当に嬉しそうに言う貴方。
やめてほしい、そんなことされたな何度も言いたくなってしまう。好き、好き、好き。骸みたいなその花が大好き。その花みたいな骸が大好き。

骸の腕がオレの首に巻き付いて、あの甘い香りがまた柔らかくて瞳を閉じる。

此の人はいつまでも愛してくれる
此の人はいつまでも信じてくれる
此の人はいつまでも害してくれる
確信なんか1ミリだってオレのものになっていないのに、信じたくって愛したくって、こちらばかり本気になってしまって

信じてる、信じてるけど。
これはどうしようもない変えられぬ思い。

「オレ、この花欲しいな」

この愛をあの愛を
背中までいっぱいで眠くなるような

「貴方が望むなら、いくらでも」

貴方の全てがどうしても
欲しい、んだ。


南風に乗ってこの香りと共に、貴方はオレに会いに愛に来る。
オレはその貴方に貴方以上の愛を捧げる。その喜ぶ顔が見たいから。


だから頂戴


(君をもっと愛をもっと!)

end

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