(甘い甘い果実の中に入った種を間違えて飲んだ時のようなあの気持ちの悪い感覚)


僕は極度のドMです。

「ボンゴレ」
「…むくろ?」

病院の真っ白な部屋。
きん、と冷えた世界に声が響いて…耳から耳に抜け遠くに飛んで行ってしまうみたいに空気が振動した。冷たい空気は乾いていて、貴方の潤んだ声は心地よく耳にはいってくる。

「むくろ」

まるで生まれたばかりの牡鹿のようにひょこひょこと縺れた足で近寄って来て、言葉を覚えたばかりのような下手くそな発音で口を開く。

「よく覚えられましたね」
「むくろ、覚えた」

嬉しそうににこおっと笑み首を傾げた貴方はまだまだ汚れを知らない綺麗な笑みをする。嗚呼、壊したい壊したい壊したい壊したい。

「ボンゴレ」
「なに?」
「僕は貴方を大嫌い故愛しています」

愛してる故の大嫌い。あの頃の怒ったような笑顔に惚れてあの優しく可愛い笑顔に笑みが零れてしまったから、いくら壊しても貴方は付いて来たから、忘れてしまい何も知らない貴方を目茶苦茶にしたい。

「だいきらいってなに?」
「愛してないってことです」
「あい…?」
「綱吉君は、僕が嫌いでしょう?」

沈黙。
何かを考えているようだった。困ったような顔をして唇を噛み締めている。
嗚呼、その顔その顔。なんて人間らしい顔なんでしょうか…もっともっと、その瞳を歪ませて。むしろ泣いて。ボロボロに壊して、そこから壊れて僕を世界一嫌って。

「きらい、なの?」
「はい、綱吉君は僕が大嫌いなんです」
「…きらい、嫌い?それは、いいこと…?」
「いいことですよ」
「…でも、ここが痛いよ」

胸をぎゅっと握って上目でこちらを見つめて、嗚呼その瞳、その瞳です。やはり綺麗で人間的で、だからこそなんて美しい。

「僕は貴方を愛しています」
「それはいいこと?」
「悪いことです」

困ったような表情はかわらない、かわらなくていい、かわらないでほしい。辻褄の合わない話は貴方にはきっとわけがわからないでしょうから(まあわざとわからないように言っていますから)

「じゃあ、オレはむくろが嫌い」

そう言われたいが為に、愛する貴方に世界一嫌われる為に、愛する故の嫌悪を押し付けて。

本当、極度のマゾヒストである。

「大嫌い、大嫌い、なによりも大嫌い」

聞いたことが無いような低い声で貴方はこちらを見つめていた。純粋だった筈の貴方なのに嫌いの意味なんて知らない筈なのに、そんなに悲しそうな瞳で僕を睨み付けて来るなんて、駄目です…頭の天辺から足の指の先まで、

「嫌い嫌い嫌い何より嫌い」

ゾクゾク、してしまう。




「これで満足なのかよ、骸」




はっきりとした声、見据えるような瞳に恨みの籠った僕の名前。猫みたいに喉で低く唸るが僕が微笑めばぴくっと動いて顔を歪めてなんだよ、と呟いた。

「いつから記憶が?」
「さっき。っていうか今さっきだよ」

機嫌悪く、ちっちと舌打ちをして腕を組めば小さく溜め息を吐いて乗り出してきて、

「嫌いでいいのかって言ってんの」
「いいですよ」
「オレが骸を捨てていいわけ」
「それは嫌です」
「理解できないね…」

ふんっと鼻を鳴らしてやはり機嫌悪く口を膨らませればドMなりにスレた貴方も大好きです…!!

「オレは骸なんか嫌いだ」
「クフフ、なんか気持ちいいですね」
「変態ドMパイナッポー」
「嬉しいですね」
「気持ち悪いんだよ…」
「ウズウズしちゃいます」

まけずと台詞を返せばぐりっと顔をそらして俯いたりするから、可愛過ぎて顔を覗き込めば真っ赤な顔できっとこっちを睨んだり。

「恥ずかしそうな顔をして…おかしいですね、僕が大嫌いなんでしょう?」
「死ね」

唇を噛み締めて、さっきのあどけない表情を潰してしまうような顔で。

(嗚呼違うのかもしれない)(あの歪んだ嫌そうな顔よりも僕は)(その瞳に弱過ぎる)

「ボンゴレ」
「…改めるな」
「愛しています。なにより誰より、好き故の愛で、貴方を愛しています」

目を見開けばかああっと耳まで顔を赤くしてシーツをぎゅうっと握って。なんて恋しいんだろう。やはり違う、あの歪んだ瞳は確かに人間らしい。人間しかできない人間の顔だ。

でも、それでも、
(こちらの方が君らしい。)

「…ボンゴレ」
「好きで好きでしょうがない」
「え?」

ガバッとシーツで顔を隠して絶対に見せないつもりらしいが、そのかわりにものすごい大きな声で、まるで叫ぶかのように台詞を続ける。

「記憶が戻って一番に会いたかったのは骸だよ。記憶が戻って何より嬉しかったのは骸のことを思い出せたことだよ。好きで好きで好き過ぎてでも恥ずかしくって、大嫌いとしか言えないんだよ!!」

ヤバいヤバいヤバいヤバいなんて、なんて。おかしいですね。大嫌いと言われるのが幸せだった筈なのに。

「もう一度言ってください」
「言われるの嫌いじゃなかったのかよ」
「もう一度言ってください」

こんなにも、「好き」が幸せだなんて。

「…好きだよ」
「もっと」
「好き」
「もっともっと」
「好き…だってば」
「もっともっともっと」
「しつこいんだよっ!!恥ずかしいって…」

つい、だろう。
シーツから出したイライラした真っ赤な貴方の顔を両手で掴んで口付ける。貴方は目を見開いて、ただそれだけ。
触れるだけで唇を離せばただ思い切り抱き付いて。

「愛しています」
「やっぱオレは嫌い」
「好きだと言ってください」
「………、」

そしてまたぷいっと顔をそらす。
それはそれで可愛くて好き。が、その後いくら名前を呼んでも振り返ってくれなかった。というか知らないうちに寝ていた。(けど狸寝入りなのは気付いていました)

無視、それすら愛しい自分は相当イかれてます。つまり嗚呼やはりつまりそういうことなんですよ。

僕は極度のドMです。
(好き、貴方の君らしい君の言葉)
end

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