TREASURE TEXT

Das Liebesverbot.
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 ゴドーと日本に帰ってきてからの成歩堂は、と言えば、相変わらず仕事もろくに来ない長閑な弁護士生活を送っている。
 助手を務めていた少女が稼業の為に滅多に来なくなると、彼女があまり助手らしい仕事をしていなかったとは言え、多少その皺寄せが寄ってくる。
 たとえばゴミ出しだとか、備品補充、電話番、などである。
 それらの雑務をすべて自分でこなさなければならなくなって、初めて成歩堂は彼女の有り難味を思い知った。

 暇とは言っても、逆転劇で名の知れた弁護士。
 入る仕事の難易度は高く、大抵が緊急を要するものだ。
 とてもじゃないが雑務まで手が回らない。
 ゴミが溜まり、事務用品が一つ、また一つ、と底をつき、そうして困り果てた成歩堂は大胆な行動に出た。
 手が足りないなら、足せばいい。
 実に単純な発想だ。
 幸い、成歩堂の元には暇をしている人物が――人と言ってよいのかわからないが――一人、余っていた。

 かくして、ゴドーは『成歩堂法律事務所』の助手として雇用される事になったのだった。
 
 
 
  Das Liebesverbot. 〜Silber der Gespenst.
 
 
 
 
 さて、そのゴドーだが、これがまたよく機転の利く男で。
 ゴミ出しは分類もしっかりしてのけた上でするし、A4用紙もそろそろ危ないか、という絶妙なタイミングで発注するし、電話番もばっちり、その上審理中には整理できない成歩堂の書類のファイリングまでこなす始末。
 留守番中には事務所の書架で埃をかぶっていた専門書や過去の案件ファイルを読んでいたらしく、近頃では成歩堂より判例に詳しい。
 そんなゴドーに、現役弁護士として成歩堂が辛うじて持っていたなけなしのプライドは、いつ崩れてもおかしくない程傷つけられたが、煮詰まった辺りで適度なアドバイスをゴドーがくれるおかげで、昨今はスムーズに決着をつけられるようになっていた。

(もういっそ司法試験でも受けて、弁護士になっちゃえばいいんじゃないか……?)

 成歩堂は常々思っている。
 D.Z.N.Bとか言う機関はどうやったのか、ゴドーに日本国籍を持たせ、日本に入国する時にはゴドーは『日本人』として『帰国』していた。
 過去の経歴もしっかり作られているらしく、司法試験を受けるには何の問題も無い。
 弁護士になって、この事務所で働いてくれれば、少しは裕福になれるかもしれない。
 成歩堂はそんな風に妄想した。

(あ、でも。司法修習の間、また僕、一人になっちゃうな)

 それは困る。
 ゴドーの、痒い所に手が届く微細な補助に慣れてしまうと、それがなくなった時の面倒は計り知れない。

(やっぱりゴドーさんには僕の助手でいてもらおう)

 うんうん、と一人納得して頷いていると、こつ、とノックする音がして、返事をする前にドアが開いた。

「コーヒー、冷めちまったろう。新しいのを持ってきたぜ、所長サン」

 ゴドーがマグ2つを片手に所長室に入ってきた。
 自分も此処で飲むつもりなのだろう。

「あ、すいません。そう言えば、もうなくなってたんだった」

 成歩堂は空になったマグを覗いて、笑った。



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