黒猫

□第7話
2ページ/2ページ









暫く大人しく撫でられていたルナだったが、少し顔を曇らせながら口を開く。


『ロー、ナゼ、タタクしないか?』


思わず聞いてしまった事に、今自分は人間の姿をしていた事を思い出す。
ローは何故そんなことを聞くのか一瞬解らなかったが、今は考えるのをやめ、返事をした。


「叩くはしないな。何故叩く?」


尋ねると、ルナはその綺麗な青い瞳に悲しみの色を浮かべ、何かを堪えている様子だった。


「嫌なら、いい」


『…』


口を開く様子がないので、ローはそれ以上何も言わず、いつものように厨房へ朝食を取りに行った。

ローのいなくなった部屋で、ぼーっと一点を見つめるルナ。
完全には信用しきれていないのか、と言っても、そんなにすぐに信用出来るわけもないのだが、黒猫だからなどと言ったら、ローも叩くだろうと思い込んでいた。
自分が嫌がる事はせず、優しく接してくれているローに、これまでに感じたことがない温かさを心に感じていたが、今まで人間が自分にしてきた事を思うと、恐怖と憎しみがふつふつと浮かび上がる。
だがそれよりも何故か、黒猫と知られることでローに他の人間のように冷たくされたくないと、考えているルナがいた。


━━そう、自分は今人間の姿をしているのだ。


そう考えると、何故かまた胸がグッと締め付けられ、苦しくなり、とても切なく、悲しくなった。

ローの去った部屋で、ルナはうずくまる様に膝を抱え丸まるった。

すぐに部屋へ戻った来たローは、小さくなっているルナに近づき、手に持っていた食事を置くと座り込み声をかけた。


「ルナ、ご飯、だ。」


ルナは顔をあげることもせず、すぐに首を横に振った。
ローは溜め息をつくと、ルナの頭を撫で、食いたくなったら食えばいいと言ってソファーに座り本を手に取った。

それから島につくまでの数日間の間、ルナは何も口にしなかった。









━━第7話【完】━━








前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ