黒猫
□第10話
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ルナの夕食を取りに来たまでは良かったが、あれだけ内臓がやられていた為、どうしたもんかと頭を抱える。
内臓を摘出した訳ではないので機能が失われた訳ではないのだが、あれだけボロボロになっていたのだ、各内臓の機能は著しく低下しているに違いない。
本当は暫く点滴で過ごさなければならないのだが、本人が怪我の事を隠している以上どうする事も出来ない。
だからと言って、今までルナが好んで食べていたメニューを考えると、流石に素直に食べさせてやる訳にはいかなかった。
ミルクはまだ良いにしても、肉なんか食べたら胃液に加え胆汁や膵液が大量に分泌される。
胆汁や膵液は胃液と比べると強いため、それが縫合した所から漏れ出たりでもしたら、縫合不全や腹膜炎を起こしかねない。
しかし、あからさまに普段出さないようなお粥だとか、消化の良さそうな物を出してコレナニとでも言われたら、自分がルナの秘密に気付いてしまっている事を、勘付かれてしまうかもしれない。
言葉はあまり話せないが、頭が大分働くのが困る。
はぁと溜め息を付いていると、コックがどうした溜め息なんか付いてと近寄って来た。
「いや・・・食事のバランスが悪いから、アイツに肉以外のモンを食わせたいと思ってな」
「流石我が船長兼船医だな!クルーの健康管理にも抜かりはねぇか!」
そう言って笑うコックにまァなと答えると取り敢えず冷蔵庫からミルクを取り出しカップに注ぐ。
「バランスならやっぱり野菜だが、葉っぱは食わねェんだもんな・・・」
ならと提案したコックにそれだと賛同すると、油を使用せずに調理してもらい、温めたミルクを一緒に手に持ち部屋へ向かった。
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部屋へ入るとルナがテーブルの前にちょこんと座り、ローが帰ってくるのを待っていた。
その姿が妙に可愛くて少し口元に笑みを浮かべると、食事をテーブルに置いてやる。
するとルナは身を乗り出し目を見開くと、サカナと言って唾を飲んだ。
「サカナ、好きか?」
ローが聞くとスキ?と首を傾げたため何処かからロープを持ってくるとルナに見せた。
ルナは少しだけ警戒しローを見ている。
ローはミルクとロープを交互に指差し、説明を始めた。
「ルナ、コレ、嫌違う。だから、好き。
コレ、嫌。だから、好き、違う」
ローの行動をじっと見つめていたかと思うと、理解したのかロープを指さした。
『スキ、チガウ』
「そうだ。」
『コレスキ』
そして今度はミルクを指差した。
ローがそうだ、と頭を撫でていると今度はローを指差したため、何かと思いルナの行動を見守る。
『ロー、スキ』
「・・・」
ルナはそう言う意味で言っているわけではないし、ローもそう言う目で見た事はない。
あまりにも動物っぽいので、ペット的な感覚で、可愛いと思った事は何度となくあるが。
しかしそうは言っても、こうして実際に、しかも直球で言われると、何となく恥ずかしい。
こういった事に慣れていない訳ではないのだが、まさか目の前の人物にそれを言われると思っていなかったローは、不意打ちをくらい口元を手で覆うと、目を逸らした。
命を救われたにしたって、長年人間に酷い目に遭わされてきたと言うのに、まさか好きと言ってくれるとは、誰も思わないだろう。
するとそんなローの様子に不安になったのか、ルナはローのパーカーを引っ張ると控えめに声を発した。
『ローは、ルナスキ、チガウか?』
目を伏せ悲しそうに言う目の前のどうしようもなく可愛い生物を、傷に響かないように優しく抱き締めると、ローは頭を撫でながら口を開いた。
「好きに決まってんだろ・・・。あんま可愛い事言うな」
ルナの首元に顔を埋め溜め息をつくので、擽ったかったのか身を捩る。
そして、ルナからすると今のローの言葉は長い文章だったため、何を言ったのか理解するのが難しく、もう一度同じ質問をする。
『ローは、ルナ、スキか?』
「あーもう。何回言わせんだバカ。・・・好きだ」
まるで告白みたいだなと、自分で言って恥ずかしくなっているローの顔は僅かばかり赤かった。
もういいから早く食えと皿をトントンと指で叩くと、好きと聞いて安心したのか、ルナはやっと食事に手をつけ始めた。
そんなルナを見て、先が思いやられる、とローは頭を抱えるのだった。