黒猫

□第2話
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「島に着くぞー!!碇をおろせー!!」


男達の声が響き渡り、皆(みな)が忙しなく走り回っている。
黒猫はジッと樽の中に身を潜め人の声がしなくなるのを待った。

船はあれから1週間程海上を進み、現在やっと島に上陸する所であった。


『(オナカへった・・・)』


黒猫は怪我をしてからの1週間、更にこの1週間の計2週間もの間何も口にしておらず、空腹は限界を越えていた。

人の気配がしなくなったのを確認し少女の姿で樽から出ると、ユックリと倉庫の扉を開けた。
見たところ人間の姿は目に付かない。
気配もしないのでそっと倉庫を出ようとしたが、黒猫は自分が何も身に着けていないことに気が付いた。


『(・・・ヨウフク)』


この間いた島で学んだことを思い出し、何か見に纏えるものが無いか探す。
倉庫内には勿論何もなく、仕方が無く慎重に廊下を歩き、ずっと真っ直ぐ行った部屋に入った。
そこは船長室で、色々な物が置かれていた。


『(ヨウフク・・・)』


適当にゴソゴソと漁り、やっとTシャツを見つけ手に取る。
男性ものであるためまだ子どもである黒猫の膝上辺りまでを覆うには十分な大きさだった。
洋服を着終わるとふと辺りを見回す。
すると、黒猫はそこら中に置かれている光物に目を奪われた。


『(コレナニか・・・?)』


黒猫はデスクの上に飾ってある光物をいくつか手に取ると暫く眺め、Tシャツの胸ポケットに仕舞おうとした。


『(・・・)』


しかし、なかなか胸ポケットに光物が入らないので、目に付いたデスクの上の布袋を手に取った。
その中に光物をいれようとすると、布袋に何か入っていることに気が付く。


『(・・・?コレナニカ?)』


じっとそれを見つめて暫く悩んだが、考えても解らなかったためそのまま光物を突っ込んだ。

船の男達が戻ってくる前にと周りに注意しながら外に出て、船の上から島を見下ろした。


『(ニンゲン・・・イッパイ)』


この船が上陸した島はとても栄えており、船の上からでも見える大通りには人が溢れ返っていて、黒猫は一瞬悩んだ。


『(ココもニンゲンくる・・・イク。)』


あんなに沢山の人間がいる所に行きたくはないが、このまま船にいても結局人間が戻ってくるうえ、食料も見付からない。
決心をした黒猫は、船の手すりから砂浜へと飛び降りた。

漸く船から出る事が出来た黒猫は、食べ物の匂いがする方へ向かって歩き出した。











『(・・・・・・コレナニか・・・)』


しかし、大通りは女性のキツイ香水の匂いが充満しており、嗅覚がいい黒猫には頭が痛くなるものだった。
香水の匂いばかり感じ取ってしまい、中々食べ物の匂いを嗅ぎ分ける事が出来なかったが、僅かに感じた食べ物の匂いに直ぐ近くにあった店に入った。


『……』


入ってみたはいいものの、ここは人間界。
黒猫の見慣れた食べ物があるはずはなかった。
見えるのは、お皿の上の見たことの無い食べ物と、金属を使い食事をする人間ばかりだった。

ぼーっと突っ立っている黒猫に、雰囲気の良い店主が笑顔で声をかけた。


「お嬢ちゃんどうしたんだい?迷子かな?」


急に話しかけられたためビクっと肩を震わせ警戒しながら振り返るが、店主の表情と雰囲気に取り敢えず害は加えてこなそうだと判断する。
できるだけ人間との関わりは少なくしたかったが、生きるため仕方がないと言い聞かせ、自分の要望を口にする。


『・・・オナカ・・・へった・・・!』


店内はガヤガヤと賑わい、小さい声では店主に聞こえないため、黒猫は片言ながらも必死に伝えた。
すると店主はにっこりと笑い、ちょっと待ってなと言って厨房に消えていった。

何か訳のわからない事をいい急に消えてしまった店主にどうしたらいいのかと立ち尽くすしかない黒猫は、キョロキョロと周りを見回した。

人間が食事をする様子を初めて目の当たりにし、食い入る様に見詰める。

一生懸命人間の動きを覚えようとしている黒猫の背中に、突然鈍痛が走る。
入り口の近くに立っていた事と、身長が低いため相手から見えなかった事が重なり、入ってきた人の足が黒猫にぶつかってしまったのだ。


「あぁん?なんだガキ。そんなとこにいると邪魔なんだよ。」


足をぶつけた人物が声を発すると、店内にいた人達が一気に青褪めた。
空気が変わった事を敏感に感じ取った黒猫は、恐る恐るその人物を見上げる。


「汚ねェガキだなぁ。おいガキ、テメェのせいでズボンが汚れちまったじゃねェかよ・・・どうしてくれんだ!?あぁ!?」


2mはあるであろう巨体とその顔の恐ろしさ、そしてどこかで聞いたことのある怒鳴り声に黒猫は警戒心を強くする。
何を言ってるかはやはり理解出来ていないが、相手が怒っていることは理解しているようだ。


『(どスルか…)』


黒猫は殺してしまおうと考えたが、そのためには変化するしか手段がなかった。
しかし、また人間から迫害を受けることを考えると恐怖で動けずにいた。


「なんかいえよこのガキゃぁあ!!」


男が黒猫に向かって思いっ切り拳を振り上げた。
身の危険を感じた黒猫は俊敏な動きでその拳を避け間合いを取る。


「生意気なガキが・・・
 血祭りにしてやるよォ・・・・」


男は気持ちの悪い笑みを浮かべポケットからトゲのついたナックルを取り出すとそれを手に装着した。


『(アレ・・・!!!)』


何かを閃き目を閉じると、自分の右腕に意識を集中させた。


『(・・・!!!)』


━━ッガ!!!


『(デキタ・・・!!!)』


「て、テメェ!!!悪魔の実の能力者か!!!」


黒猫は右前腕だけを猫の手に変化させており、その指先には巨大な爪が生えていた。
そして黒猫が相手を睨みつけると、男は舌打ちをし物凄い形相で襲い掛かってきた。


「たかがガキの分際で・・・ナメんじゃねぇぇ!!!!」


























━━ザシュッ!!!!!!




一瞬の出来事で誰もが唖然としていた。
男が殴るよりも先に黒猫は上に飛び上がり、二回転するとその勢いと重力に任せ、男を頭から切り裂いていたのだった。


「っぁあああああああああああ!!!!!!」


男は断末魔を上げて床に倒れ、息はあるもののもう身動きもできない状態となっている。

黒猫は猫の腕を戻し、男の近くに寄った。


『・・・』


黒猫は男の声と匂いで、先程船に乗っていた男だったと確信した。
聴覚がいい黒猫はこの男が怒鳴る度に逐一ビックリさせられていたため、強く印象に残っていたのだった。






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