黒猫

□第1話
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なんとか村人の襲撃から逃れ、森を彷徨う黒猫。
その瞳はどこか朧げで、傷からは絶え間なく血が溢れている。


『・・ッハ・・ッハ・・』


この傷で随分と長い間歩き続けていたためか、足元はフラフラと覚束ず今にも気を失いそうな勢いである。
当ても無く歩き続けていると何かの光を感じ、黒猫はふと前を見る。


『(アレは・・・?)』


黒猫は自分の目に映ったそれに顔を顰(しか)めた。

そこには小さな村があり、人間がいるであろう事は考えなくても解った。
人間に助けを求めるくらいならこのまま死んでしまってもいい、自分には何も残っていないと思ったが、ふと自分を庇い殺された母猫の事が頭をよぎり、心は揺らいだ。

母猫が命を犠牲にしてまで助けたこの命を、ここで終わらせていいのか。


『(・・・ニンゲンのトコイケバ、タスカルか・・・?
)』


きっと今生きている事には意味がある。
自分にはまだやらなければいけないことがあるのだ。
そう決心し、黒猫は自身に宿っている不思議な力に希望を託し、ぎゅっと目を瞑った。
今まで見てきた人間の姿を思い出し、イメージする。


『(ダイジョブ・・・さっきオッキクナッタ。・・・きっとニンゲンナレル・・・!)』




















━━ふわっ






















黒猫の身体が変化し始めたかと思うと、次第に人間の姿に近づき、そこには10歳くらいの黒髪の少女が立っていた。


『(デキタ・・・!!)』


黒猫は喜ぶと、急いで灯りの方へ向かった。


『(カアサン、ゴメンナサイ・・・)』


自分達を痛め付け、そして命を奪った人間に助けを求める事にとてつもない嫌悪感と、母への罪悪感を感じた。
しかし今生きなければ、母猫の仇討ちさえ出来なくなってしまう。


━━━なんとしても、母さんの仇はとりたい…


そんな想いで一番近くにあった家の前まで行くと、黒猫はドアの前で声を発した。


『タ・・・タスケテ!!タスケテ!!』


暫くすると玄関の明かりがつき、ゆっくりと扉が開かれた。
中からは30代くらいの女性が出てきて、ボロボロの少女を見て目を見開いた。


「あなた・・・どうしたの!?
 何があったの!?」


『・・・あ』


黒猫はこの後の事を考えておらず、言葉に詰まった。
人間にやられたなどと人間に言えるわけがなく、そもそも今まで会った人間が話していた言葉を少しだけ話せるだけで、野生で育ってきた黒猫に語学や上手い言い回しをする知恵などあるわけがなかった。

言葉が出ずに黒猫が黙っていると、先程の女性は「話せないほど重症なのね」と、黒猫を支えながら村唯一の医師がいる家へと向かった。





























「先生!!先生起きてらっしゃいますか!?
女の子が大変なんです!お願い出てきて!!」


医師の家に着くなり、女性はドアをドンドンと叩き大声で叫んだ。


「騒がしいのう。そんなに呼ばんでも聞こえるわい。」


ポリポリと頭をかきながら、少し古びた家の中から眼鏡をかけた少し眠そうな老人が顔を覗かせた。


「あぁ良かった・・・先生、この子を見てあげて!酷い怪我なんです!!」


「ふむ・・・」


眼鏡をくいっと上げながら黒猫に視線を合わせじっと見つめる医師。


「確かに重症じゃの。だがなんとかなりそうじゃ。そこのベッドに。」


女性は医師が指差したベッドに黒猫を寝かせた。
助かると言う言葉を聞いた安心感からか、不本意にも黒猫はそこで意識を手放した。







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