黒猫
□序章
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夜は更け、空にはまるでコンパスで描かれたように丸い月が光を放っている。
その周りには装飾品のように美しく輝く無数の星がきらきらと瞬いている。
「おい!見つけたぞ!」
「捕まえろ!!」
バタバタと何かを追う、とある村の住民。
村人が追う先には大小2匹の黒猫がおり、どちらも傷だらけの身体を必死に動かしている。
「・・・ッハ・・・ッハ・・・」
『・・ッハ・・ッハ・・ッハ・・!!』
2匹は振り返る事も無く必死に走り続ける。
だが、小さい黒猫は身体に見合い体力が少ないのか今にも倒れそうな勢いである。
『・・ッハ・・ッハ・・
・・・・ッ!!!』
ついに小さい黒猫は足がもつれ地面に転がった。
「一匹こけたぞ!!
捕まえろ!!!」
近付いてくる村人の声を耳に、小さい黒猫は生きることを諦め目を閉じた。
「シャーッ!!!!」
「うわーー!!!!」
刹那、先を行っていた大きい黒猫は、小さい黒猫が掴まりそうになっているのに気づき村人の腕に噛み付いた。
「この使い魔め!!」
「やっちまえ!!」
ズシャッ━━!!
『!!!!』
小さい黒猫を庇い、大きい黒猫は切り裂かれた。
「手間かけさせやがって!」
「おい、もう一匹も・・・ッヒィ!!」
「なんだあいつ!!」
「化け物だ!!」
さっきまで小さかった黒猫は、村人たちをも越える大きさになり、尻尾の本数も2本に増えている。
村人は訳がわからず慌てて逃げようとした。
━━ズシャッ!!ズシャッ!!
しかし、その大きくなった黒猫の鋭い爪によりそれは適わなかった。
一人の村人だけが残り、あまりの恐怖に腰を抜かし大きな黒猫から後退る。
「くっ・・・くるなっ!!くるなっ!!!
この怪ぶ━━ズシャーーッ!!!」
村人は全てを言い終える前に、鋭い爪により事切れた。
辺りには村人たちの切り離された手足や内臓がぐっちょりと溢れており、むせ返るほどの生臭い匂いに、大きな黒猫はゆっくりとした足取りでその場を離れた。
―――木々の間より溢れる月光に照らされた姿は、決してその場に似つかわしいとは言えず、毛は月の光を反射しきらきらと輝き、眼球はまるでサファイアのように美しい光を放っている。
その容姿は和の国の怪談で出てくる、猫又のような姿をしていた。
━━序章【完】━━