旅の記憶
□君がいるあいだ
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一面の秋桜畑。
白にピンクに紅色が、風に乗って楚々と揺れる中、
同じリズムで揺れる深茶の髪が見え隠れする。
あっちへぴょん。
こっちへぴょん。
面白いから暫く見ていようと思った瞬間。
再び跳ねた悟空がこっちに気付いてしまった。
「あっ八戒ー!!こっちこっち!」
背の高い秋桜の間から、ぴょんぴょん片手を振りながら飛び跳ねて笑う。
僕も微笑いながら近づく。
「ごめんな?呼び出したりして」
「どうしたんですか?こんなメルヘンちっくな場所で」
昨日の夜。
一緒の部屋になった悟空に、今日どうしてもと言って、旅館の裏のこの場所に誘われたのだ。
悟空は少し恥ずかしそうに笑って、後ろで持っていたものを差し出した。
「はい。今日、八戒誕生日だろ?」
「…え。そうでしたっけ」
この忙しい生活で。
そんなもの忘れていた。
目の前に差し出されたのは、きれいな秋桜の花束。
不器用にリボンで結ばれていて。
「これ…僕に?」
「なんか、八戒に似てる気がしてさ。きれいだし。…男に花束とか、変かも知れないけど、似合うと思ったから」
照れているのか、俯いて早口で言う悟空の手から、そっとそれを受け取った。
嬉しい。
素直に、嬉しいと思える。今だから…というのと、悟空だからという気持ち。
「ありがとう悟空。キレイですよ」
笑ったら、悟空もえへへっと笑った。