旅の記憶
□風鈴
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じめじめ蒸し蒸し。
部屋の中の景色まで揺らいで見えそうです。
昨日の夜から雨が降っていて、今日も止まないから出発は明日に延期。
三蔵さんたちは次の町までの食料や薬を買いに商店街へ。
さっき宿屋のおばちゃんが、クーラーの無い部屋でも少しは涼しくなるだろうと言って風鈴をくれたのだけれど、この姿のままじゃ飾れない…。
今なら。
少しだけならいいですよね?
しゅん。
空気が振動する。
人間と同じ足で床に立つ。
久しぶりすぎて、変な感じがするけれど。
これで風鈴を飾る事ができます。
「みんな喜んでくれるかなぁ…」
ちりーん
ちりーん
小さくても透き通った綺麗な音。
僕は目を閉じて、その夏ならではの心の涼しさの中に身を浸します。
だから…ドアが開いたのにも気付かなかったんです。
「風鈴とはまた風流ですね」
ばっと振り返ると、皆と買い物に出掛けた筈の八戒さんが微笑って立ってて。
僕は慌ててベッドにあった毛布で身を包み
この状況をどう説明していいか分からずただ混乱して。
「あのっ御免なさい!僕怪しい者じゃないんですっその…あの…」
「ジープ。でしょ?」
返されたのは意外にも僕の名前と優しい微笑み。
「は…?」