旅の記憶
□続★貴方のいる風景
1ページ/4ページ
***
これは、とあるベーカリーショップの天才ブーランジェと、ジーンズショップのオーナーの、恋が実った後のお話です。
(森本レオ風)
***
「ただいま!八戒」
「お帰りなさい♪お疲れさまです。今日も時間通りですね」
毎日決まった時間に聞こえるエンジン音。
夕焼け空を背景に、この脇道に入ってくる真っ赤なジャガー。
一面ガラスのスクリーンから、自動ドアをくぐって笑い掛ける恋人に手を振った。
いつも通りだけど…。
今日は特別な日です。
「メイド喫茶じゃねぇんだぞ八戒。“お帰りなさい”じゃねぇ“いらっしゃいませ”だ」
厨房から出てきた三蔵が、悟浄の顔を見るなり露骨に嫌な顔をする。
僕はそれを見て、思わず吹き出してしまった。
「よっ店長★相変わらず景気良さげな眉間してンなぁ」
「てめぇか…ここはお前らの家じゃねぇって何度言わせりゃ気がすむんだ」
「いーじゃねぇか。こーやってパンを食いに来てるお客様だぜ?俺は。つか、行った事あンの?メイド喫茶(笑)」
べちゃ。
…あーぁ。
やりましたね。
店内に小気味良い音が響く。
「―――ッιこれ」
「できたて一番だ、感謝しろ。」
ふるふると震える悟浄の顔の半分が、白い生地で覆われていて。
コントみたいに頬を流れるそれを見て、厨房から顔を出した悟空は「焼いたら旨そう」と呟いた。
「馬鹿野郎ッこれは“できてもねぇパン”だ!くさっイーストくさ( ̄□ ̄;」
「どうして突っ掛かられる事分かってて毎日来るんです?もぅ…仲が良いんだか悪いんだか」
布巾でゾンビみたいになった顔を拭きながら苦笑すると、くしゃっと僕の髪を撫でた。
思わず顔を上げて見つめる。
「そりゃ…少しでも早くお前の顔見たいからじゃん?分かり切った事聞くんじゃねぇよ」
そのまま頬を撫でられ、顔が熱くなる。
そんな事。
何故普通に言えるんだろう。
…嬉しくて俯く。
「あー見苦しいッさっさと帰れセアカゴキブリ」
「何それ。新種の毒ゴキ?」
「クモだろ…。ま、家で待ってっから。あんまり遅くなんなよ?」
「あー帰れ帰れ。二度とくんな」
「さんぞ。それシットってゆうんだろ。オトナゲないぜ?」
スッパーン!!
何のドラマで聴いたのか、意味もよくわからないであろう悟空が口にした言葉に、三蔵からハリセンが飛んだ。