旅の記憶

□続★貴方のいる風景
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これは、とあるベーカリーショップの天才ブーランジェと、ジーンズショップのオーナーの、恋が実った後のお話です。
(森本レオ風)
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「ただいま!八戒」

「お帰りなさい♪お疲れさまです。今日も時間通りですね」


毎日決まった時間に聞こえるエンジン音。
夕焼け空を背景に、この脇道に入ってくる真っ赤なジャガー。

一面ガラスのスクリーンから、自動ドアをくぐって笑い掛ける恋人に手を振った。

いつも通りだけど…。
今日は特別な日です。


「メイド喫茶じゃねぇんだぞ八戒。“お帰りなさい”じゃねぇ“いらっしゃいませ”だ」

厨房から出てきた三蔵が、悟浄の顔を見るなり露骨に嫌な顔をする。

僕はそれを見て、思わず吹き出してしまった。

「よっ店長★相変わらず景気良さげな眉間してンなぁ」

「てめぇか…ここはお前らの家じゃねぇって何度言わせりゃ気がすむんだ」

「いーじゃねぇか。こーやってパンを食いに来てるお客様だぜ?俺は。つか、行った事あンの?メイド喫茶(笑)」

べちゃ。

…あーぁ。
やりましたね。

店内に小気味良い音が響く。

「―――ッιこれ」


「できたて一番だ、感謝しろ。」

ふるふると震える悟浄の顔の半分が、白い生地で覆われていて。

コントみたいに頬を流れるそれを見て、厨房から顔を出した悟空は「焼いたら旨そう」と呟いた。

「馬鹿野郎ッこれは“できてもねぇパン”だ!くさっイーストくさ( ̄□ ̄;」

「どうして突っ掛かられる事分かってて毎日来るんです?もぅ…仲が良いんだか悪いんだか」

布巾でゾンビみたいになった顔を拭きながら苦笑すると、くしゃっと僕の髪を撫でた。

思わず顔を上げて見つめる。

「そりゃ…少しでも早くお前の顔見たいからじゃん?分かり切った事聞くんじゃねぇよ」

そのまま頬を撫でられ、顔が熱くなる。
そんな事。
何故普通に言えるんだろう。
…嬉しくて俯く。

「あー見苦しいッさっさと帰れセアカゴキブリ」

「何それ。新種の毒ゴキ?」

「クモだろ…。ま、家で待ってっから。あんまり遅くなんなよ?」

「あー帰れ帰れ。二度とくんな」

「さんぞ。それシットってゆうんだろ。オトナゲないぜ?」

スッパーン!!

何のドラマで聴いたのか、意味もよくわからないであろう悟空が口にした言葉に、三蔵からハリセンが飛んだ。
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