徒然なる道
□Go West 「旅立ち」
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「煙草、いる?」
隣の、清一色の部屋。
八戒が気になってタンタン足を鳴らす悟空と、咥えたハイライトに火を点け、一本勧めた悟浄に、清一色は曖昧な笑みを返す。
「いえ…煙草は」
「そ?」
出した一本を戻し、ポケットに突っ込んだ。
「アンタさ。いい声してんじゃん?八戒と互角にやり合える奴なんざ、三蔵しかいねぇと思ってた」
「…それは…どうも有難うございます」
気まずい空気に、紫煙が上がる。
悟浄は、清一色を責める事はしない。
三蔵が派手にやらかしてくれたので、何をする気も失せたのだ。
八戒が戻るなら。
もうそれでいい。
「…ま、ソロの大物のアンタにとっちゃ、演奏者なんざ道具に過ぎねぇかも知んねぇけどよ。…俺達にとっちゃ、大事っつーか…家族以上のモンがある訳よ」
「えぇ…それはあの人とやってみて、貴方がたを思い返してみて。身に染みて分かりました。…“仕事”でやっているのでは、ないのでしょうね、貴方がた家族は」
苦笑しながら清一色が顔を上げると、紫煙をくゆらせながら悟浄が笑った。
「そーね。仕事だとは、あんま思わねぇかもしんねーわ。…つーか」
テーブルの上に置いてあったカードを見付け手に取ると、そわそわしている悟空の袖を引っ張る。
「ポーカーでもすっか?暇だしよ」
「さっき…嫉妬してくれたんでしょう?」
もう何分重なっていただろう、お互いの体温を離せないまま時が過ぎていく。
「…さぁな」
「手を出すのはマズイですが…嬉しかったんですよ。本当は」
「……」
「だから…恨み言どころか、殴られてドキドキしちゃいましたから、僕」
「…ドM」
密着した身体から、鼓動が聞こえる。
少し…早い。
「警備員姿。似合ってますよ。でもこんな侵入の方法よく考」
「もう喋んな」
「んむ…」
口を塞がれ、目を閉じ再び甘い感覚に酔う。
「ぷは。だって喋ってないとこんな…//誤魔化せないじゃないですか」
「何を」
紫水晶がかっちり翡翠を捕えると、顔が熱くなるのを止められなくなり、ふわっと淡く染まる。
「…ほら」
「…なるほど」
その紅に挑発されたのか、熱を隠せない頬に唇を落とし、首筋に下ろしていく。
「ちょ…さんぞ?」
シャツをたくし上げ肌に直接三蔵の手が触れると、ビクッと八戒の身体が跳ね上がった。
「あ…//待って。それはマズイですよ」
「…ぁ?」
「早く行かないと…皆、隣で待ってるでしょう?喧嘩とかになってないか心配ですし…」
「小学校の学級委員かお前は」
ふぅっとため息をつくと、組み敷いていた八戒から下りドアに向かった。
「あ、三蔵」
「なんだよ」
ドアノブに手を掛け振り返ると、体を起こした八戒が不安そうな瞳で見上げてくる。
「僕は…戻っても、いいんでしょうか」
「…くだらねぇ事聞いてんじゃねぇよ」
再び背を向けドアを開けると、少しの躊躇の後、確かめるように言葉を紡いだ。
「何の為に来たと思ってる。…お前が居ないとまとまらねぇからな、このバンドは」