徒然なる道
□Go West 「拘束」
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最初に連れて来られた部屋は清一色が属する会社のビルの一室だったらしい。
自分のギターと、テーブル。
綺麗なグランドピアノと、アンプに録音機器。
一つの目的のためだけの殺風景な部屋に、今も閉じ込められている。
「みんな怒ってるかな…怒ってるだろなぁ」
ふっと苦笑が洩れる。
何故僕なんだろう。
他にも有能なギタリストなんてたくさんいるのに。
わざわざこんな面倒臭い事しなくても。
記者会見だって当て付けなんだ。
僕と、三蔵たちへの。
二日間色々考えて、脱出も試みた。
いっそ腕を切ってギターなんて弾けなくなれば…とも思ったが、見渡してもナイフの様な物もないし、第一そんな事をすればGo westにも帰れなくなる。
「ていうか、僕の事なんか忘れて楽しくやってるかも。…はは、ありえますね」
暫く薄く笑い、広い天井を見上げる。
ふと頭をよぎったのは、亡くした双子の姉の言葉。
『悟能は才能があるんだから。もっと広い世界に出なきゃ駄目よ!私応援してるから♪』
広い、世界。
今彼がいる世界は、確かに広く、才能あるアーティストに溢れている。
だがそこに、彼、悟能が望むものは。
「花喃…言ったろ?どんなにいい事務所に入ったって、どんなにお金を貰ったって…そこに良い『音』と『声』がなきゃ意味がないって…だって少しも楽しくない。だって…こんな…」
身体が軋む。
ここには彼の望む音も、声も、人も…時間すらない。
一部には体を売ってまで有名事務所に入ろうとする者もいるらしいが、全く理解できなかった。
ただ吐き気がした。
清一色の『声』が悪いと言う訳では決してない。
売れているだけあって、擦れ気味の色気のある良い声を持っている。
ただ何かが足りない…八戒にフィーリングしないのだ。
三蔵のようには。
そしてそのまま、互いに動けないまま今に至る。
Go westの方は最初にお話した通りのダメダメっぷり。
「…ここのストロークはベースと一緒でいいのか?」
「歌入って三小節にバスで入ったらいーんだよね?」
「ちょいここだけギターソロと合わせてくれる?」
…。
訪れる静寂。
そして悟空の絶望的な問い掛け。
「皆さ…俺もだけど。それ、ダレに言ってるワケ?」
全てを見通せる司令官は、もう居ない。