読物

□うたたね
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夕日に照らされた部屋、少し開けた窓から時折吹く風に、定春のフワフワと桂の艶やかな黒髪がサワサワと揺れて。あたたかくてでもなんだか切なくなる光景。
そういえば。俺と桂が初めて会ってからの最初の夏。まだ松陽先生も晋助も一緒だった頃。月明りに照らされた桂の寝顔があまりにきれいで、こうして見ていたことがあったっけ。
あれからたくさんの時間が過ぎ人も過ぎ去り、それでもこうしてまたふたり同じ時を生きられることがなんだかうれしくて
その頬に触れてみたいと思うが。
「さわったら起きちまうかな」
もう少し寝顔を見ていたい気もする。
触りたい、でも、起きられたくない。

そのときひゅうっと春風が吹き、舞い込んできた桜の花びらが桂の髪にもひとひらふたひら。
その美しさが無駄に銀時の胸をしめつける。
(そりゃ犯罪でしょうよ小太郎さん)
結局。あの頃からずっと。コイツを想う気持ちは変わってないことを思い知らされる。ともに育ったあの頃から。戦場で死線をくぐり抜けたあの時も。たもとを分かち別々に生きた日々でさえ。もちろん。そんな事は面と向かっては言えないけれど。
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