Novel C

□My irritation and loss
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『アイツ…』

名前はわからないが
ソイツが青道の1年だということはスグにわかった

何度か試合で見たことがあった
始めは1年のクセに青道でレギュラーとるなんざ生意気なチビだ、くらいにしか思っていなかった
他にも生意気だと思うヤツはたくさんいたから
別に俺にとって特別じゃなかった


それが、ケガをしてからはアイツを見る度に言いようのない苛立ちが腹の底から湧き上がるようになった

守備中の素早い動きや
俊足を飛ばし塁上を駆ける姿が
まるで、足の壊れた俺を嘲笑っているように見えて仕方なかった

話したこともないアイツがそんなこと思っているはずねぇコトは分りきってても

とにかく
アイツを見ると苛々した


挙句、他のチームメートと騒ぐ姿にさえも見ていられない程に俺を苛立たせた

ただの八つ当たりとわかっていても止められず

いつの間にか
試合以外の時でさえ
目の前にいないアイツが脳裏に浮かび
その度、やりきれない苛立ちが募っていた

だけど、苛々して仕方ないだけなのに
何故か気がつけばアイツのコトばかり考えてしまっていた

苛立ちの奥に隠れているものに
俺は気づいていなかった





『じゃーな!』
『おう!』

後を付けられているなんて気づきもしないアイツは
ゲーセンから50m程の所で
他のヤツらと別れ1人別の道へ歩き出した


その時、自分が何を考えていたのか
何をしようと思っていたのか
今となってはわからない

ただ
「今しかねぇ」
その言葉だけが頭の中で響いていて
俺は無我夢中で足の痛みさえ忘れ
アイツの背中を追いかけた
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