Novel C

□始まりの予感
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『だあ〜!忘れてたああ!!』
『っるせぇな!いきなり叫ぶんじゃねぇ!』

オフ日の午後、部屋でゲームをしている途中、沢村が突然大声を上げた

『で?何を忘れてたって?』

背後からチョークスリーパーをキメつつ問いかける

『い、いでで…しゅっ、宿、題!痛ぇ!ギブギブ!』
『はあ!?』
『ちょっと、今から金丸んとこ行って来るんで!』

僅かに力を緩めたスキに沢村は腕をスルリと抜け、カバンからノートを取り出しバタバタと部屋から出て行った

『ったく、あのバカ』

突然、1人になりゲームをやる気も失せてしまった
時計を見ればちょうど4時、夕食にはまだまだ時間がある

バットでも振ってくるか、と立ち上がったところで着信音が響いた


『ん?』

発信者は御幸一也


御幸?
って、たしか今日はナベちゃん達と偵察に行っているはず…

何かあったのか?と思いつつ電話に出る

『もしもし?』
『もしもし』
『?』

受話器から聞こえてきた声は明らかに御幸とは違う

一度、携帯を耳から離しディスプレイを見てみるが、そこにはやっぱり「御幸一也」と表示されている

どーなってんだ?


『御幸じゃねぇよな?誰だお前?』
『誰でしょ〜?』
『ふざけんな!てか、御幸は?』
『一也なんてどーでもいいから、早く答えてよ』

何なんだコイツ?

けど、待てよ?
御幸のコトを「一也」て呼ぶのって…


『もしかして、稲実の成宮?』
『ピンポン!さすが、青道のチーター』

受話器からやけにはしゃいだ笑い声が響いて来る

『その呼び方やめろ!てか、他校のエース様が何でウチの主将のケータイから電話かけて来てんだよ?』
『何?そのよそよそしい言い方、つまんないんだけど』

よそよそしいも何も、俺とお前はライバル校の野球部員として顔見知り、程度の関係じゃねぇか?
と言いたいが
ここ最近、対戦相手として試合をする時や他校の偵察で偶然顔を合わせた時にコイツは妙に俺に絡んで来て
「青道のチーター!」なんて呼んだり、「連絡先教えてよ」とか「今度、遊ぼうぜ」なんてふざけた事ばかり言って来る

『ちょっと?聞いてんの?』
『あ、ああ。悪りぃ』
『信じらんない!この俺と話してる最中によそ事考えてたの?』

勝手に電話して来といて何なんだよその上から目線は
まあ、「エース」なんてこれくらい気が強いくらいでちょうどいいのかも知れねぇが

『悪かったって。で、何で成宮が御幸のケータイからかけてきてんだ?』
『俺達も同じ球場に偵察に来てたんだよ。
俺は離れた席に座ってたんだけど。後輩に一也達の近くに座ってたヤツがいて、ソイツが一也の座ってた席にケータイ置き忘れてるの見つけてさ』

マジか…
何やってんだよあのクソメガネ
ケータイ落とすなんて沢村でもしねぇようなミスしやがって

『そりゃ、わざわざありがとな。
御幸達が帰ってからまだそんなに時間経ってねぇよな?』
『さあ?ま、試合終わったのは10分前くらいだけど?』
『じゃあ、まだ近くにいるな。すぐに一緒にいるヤツに連絡して取りに行かせるわ』
『ダメ!』
『は?』

ダメ?
わけわかんねぇ、何がダメなんだ?


『取りに来いよ』
『え?』
『だから、取りに来いって』
『俺が?』
『当然じゃん!』
『はあ!?何で?』
『そんなん決まってんじゃん?会いたいからだよ。この俺がお前に!』

会いたい?
成宮が俺に?
何で?
マジ、意味わかんねぇ


混乱する俺をよそに成宮は一方的に待ち合わせ場所を告げ

『じゃ、待っててやるから自慢の脚、飛ばしてして早く来いよ』

なんて楽しそうな声で言うと通話が切られた

『ちッ!何なんだよ!』

舌打ちを打ちつつも
手早く出掛ける支度を始める


耳の奥には楽しそうな成宮の笑い声が響いていて

つられるように
何か楽しいコトがあるんじゃないか
なんて気持ちが逸りだし

勢いよくドアを開け駆け出した



end.


2018.2.6.



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