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□零
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「ッ! 速い!」
この呟きは何度目だろうか。
しかし、敵ながら天晴れ、というべきか。すでに一三ミリ弾を、四,五発は叩き込んでいるはずなのだが、向こうはかなりの乗り手らしく、全て急所をはずされ、「何とか掠った」程度の効果しか、あげられていない。いや、第一に、ライスターという国の戦闘機は、基本的にタフなのだ。何せ、まだ新しい国なので、国家としての地盤が固まっておらず、国民の支持を、手っ取り早く集めようと、人命尊重に躍起になっている。その結果の重防御だ。
……もっとも、自国の戦闘機は、と言うと、はっきり言って、脆すぎる。
先祖代々、脈々とその血に受け継がれてきた国民性。つまり白兵戦で、矢の如く相手の懐にもぐりこみ、必殺の一撃を叩き込む、という、武人の心構えを、前提に作られている。なので、その矢の如き俊敏さを得るために、贅肉なぞ、はなから存在しないかのように、極限まで機体を絞り込み、一撃で相手を叩き伏せるために、大口径の機関砲を搭載している。その結果、防御は、頭の中から完璧に閉め出された。
 全く、実に乱暴な話だ。もし相手に先手を打たれたら、ということは、考えなかったのだろうか。もしこちらの切っ先が、あと僅か相手の喉もとに届かなかったら、どうしろというのだ。
しかしながら、これまでのところ、俺にとっては、何ら関係ない話なので、今は良しとする。この開発経緯を、乱暴だと感じているのは、他のパイロットたちの話である。私は、その設計思想と、同じような考え方をしているので、むしろ都合がいい。しかしながら、不運にもそれが関係してしまい、早々とこの機の開発者のツケを、代わりに払わされることになった奴も、何人かいたのも事実だ。私が思うに、この「正宗」が是か非かを問うのではなく、私のような輩には「正宗」を、そうでないものには、それに見合った機体を、作ればよかったのではないか。確かに、複数機種を作るのは、いろいろと面倒が生じるが、みすみすパイロットを死なせるよりは、ましだと思う。
 残念なことは、所詮こんなことをいっても、私は何の影響力も持たない、ただの一兵卒だということか。
ともかく、今のところは、一発が水平尾翼の先端を、少しばかり抉っていっただけで、後は何とか凌いでいる。被害はそれだけだからいいが、もし胴体や主翼に命中したら大事だ。
今俺が乗っているこの「正宗」の最新型、「艦上戦闘機正宗五二型」も例に漏れず、防弾性能は貧弱。一発喰らっただけで、どうなるか分からない。
とはいえ、防弾性能と、そう言えるだけでも、少しはましというものだ。あの開戦時の、バール島攻撃を成功させた、正宗二一型にいたっては、防弾性能と口にするのも、はばかられる。しかし、結局は気休め程度の差でしかない。
だから、こいつで頑丈な奴らと渡り合うには、防弾性能を削ってまで得ようとした、機動性に掛けるほかはない。幸いなことに、機動力だけは、敵を圧倒できるレベルに仕上がっている。
それと、自分で言うのもなんだが、俺自身の卓越した空戦技術もあって、ここまで生き残ってきた。
そして、これからも死ぬ気はない。
何だかんだいって、俺はこの戦闘機、正宗五十二型を気に入っている。
この愛機となら、どんな相手だろうと、勝てる気になってくる。しかも、扱いづらい二門の二〇ミリ機関砲を降ろして、代わりに一三ミリを増やし、計四門とした、現地改修型だ。性能は最高、とはスペックを見る限りでは、お世辞にも言いがたい。が、しかし、乗っていると、そんな気にさせてくれる、不思議な機体である。
惜しむべきは、最近ようやく配備されたばかりで、隊全員に行き渡っていないことだ。しかも、この現地改修型は、俺の機だけだ。もっとも、新人どもには、当たればでかい二〇ミリのほうがいいのかもしれない。このご時世で、全員分の乗機があるだけまだましか。
とまあ、それはさておき、敵の機体は「デビルステイ」。
ギヤマン鉄工所の異名をとる、ギヤマン社が送り出してきた新鋭機である。
その異名にまさしく、頑丈なことこの上ない。
性能は、特に突出した点もなく、平均的であるが、強い。
何故か。それは、その平均が高いのだ。機動力では勝っているにしろ、防弾性能は雲泥の差。速力にいたっては、四〇キロ近く違う。第一、エンジン馬力が、向こうは倍近くあるのだ。
まだ、前線に出だしてからの期間は短いが、もう随分な数の戦友が、奴らにやられている。
何よりも怖いのは、性能が全体的にそれなりのレベルなので、さして熟練でもないパイロットでも、扱いやすいことだ。
だが、今俺と対峙している奴は違う。機体こそ、何の変哲もないデビルステイだが、パイロットが明らかに違う。
相当な熟練。撃墜王。おそらくは、そう、呼ばれていることだろう。
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