海☆長編サブリエ(ブック)

□気づかない優しさ
2ページ/5ページ




「いただき、ます」


ひとくち。熱すぎないスープは、すぐに飲めるように配慮してあり、とても優しい味がした。


「キャプテンがマナのためにコックに言って胃に優しいの作ってもらってたんだ!」



あの人が、そんな事を言ったんだろうか。



「キャプテンは優しいんだ」



優しいのかなんて、わからない。
ペボにとっては、一番信頼していて、信用している船長なのだということがすごく理解できるが、
マナにとってまだ全然理解できない人。

今わかるのは、目つきが怖くて、口が悪くて…

でも、仲間を大事にしていて…

マナの病を…一応気にしてくれている、らしい人。

普通海賊になる、ならないなんて自由であって、乗るからといって報酬などあるはずもない。

のに、ローはマナの腕前を買い、この船に乗せてもらえるどころか、報酬として治療もしてくれると言うのだ。


マナは考えてしまう。









ダメだ。
頭が回らない。

嬉しいのか…悲しいのか…。

言い表せない気持ちが溢れてくる。








ぼたっ


ぼたり




「マナ?どうしたの⁉どっか痛いの?大丈夫?キャプテン呼んでくる?」


静かに首を横に振ればペボはすごく心配そうにマナの背中をさすった。

溢れ出した大粒の涙は止まってくれず、ただただ流れ落ちて。
余計ペボを心配させてしまうとわかっているのに。


「わ、たし」


マナの小さな言葉にペボがうん、と返事を返す。





「い…生きて……生きて、たいのっ」



何にも出来なかった。
生まれてからずっと病院に預けられて、閉鎖された空間だけがマナの場所だった。

皆と外で遊びたかった。

冒険なんてものもしてみたかった。



「本当は、もっと…私、だっ、て…
自由が…ほしかった」




この船に乗って、少しだけど海賊というのを知った。

皆とっても生き生きとしてて、マナにも話しかけてくれたり、からかって笑ったり、わからない事を教えてくれたり。

もちろん、好意的だけでもなかったけれど、どんな感情でもマナにとっては新鮮なものだ。



「でもっ、私は…誰かにすがるしか、生きる道が、なくてっ」


それでも、願うのはいけないのだろうか。
誰かに助けてもらわないと、命を繋いでいけないなんて。それでも生きたいなんて、他から見れば欲深いのかもしれない。


自分はなんてワガママなんだ。











「それって、いけないの?」








「……え?」



キョトンと、首を傾げたペボは不思議な顔をしている。







次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ