海☆長編サブリエ(ブック)

□無自覚
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ポタ ポタ

規則正しく落ちる点滴の音を耳に入れながら広げた本の文字を追って行く。

本来なら潜水して移動するところをそうしないのは、マナが起きた時にややこしい事態にならないためだ。

この船は潜水艦にも関わらずしばらく潜っていない。
マナを乗せてからはたまたま潜らなくてもすむ状態だったからで、サイクロンや早くに敵船に気づいた時、戦うのが面倒なときは通常潜るを選択する。

ようするに、マナは今現在、この船を″潜水艦″と理解しているかと問われれば答えは否のはずだ。
閉鎖された空間では人はパニックに陥りやすい。

なので、とりあえず、浮上したまま進めとペンギンに指示したのだ。
もちろん邪魔…敵船が現れればただちに潜るが、何もなければこのままだ。














規則正しくしていた音が止む。
どうやら点滴は終わっていたらしい。
本に夢中になると時間を忘れてしまうというのが難点だが、時計を確認すればあれから二時間が過ぎたあたり。
点滴が終わっていたとしても、たいした時間はたっていないはずだ。


「まだ顔色が悪いな」


マナの顔はまだ青白い。
この調子では目が覚めても今日は起き上がるのは無理だろう。

この船に乗せると決めたからにはマナの体にいい環境をつくらなければならない。
おおまかには変わりやすい天候、気温、それに対応していかなければならない。

この船にはローをはじめ、ほとんどのクルーが医術を学んでいるからあまり苦にはならないだろう。

あとは女がこの船に乗る事…は、表向きには問題ないだろう。
この船のルールはローだ。


「船長」


控えめなノックの後入ってきたのはシャチで、問題なく船を進めていると伝えにきた。


「落ち着いてるみたいですね」


「あぁ」


「あ、マナの部屋はあそこでいいんですよね?ペボともうちょい掃除しときます」


数日マナがいた部屋だ。
あそこはやはり埃っぽい。意外にも気が利くシャチにローは半ば驚きながら頷いた。


「予備の毛布もあったろ。あれも何枚か足しとけ………いや、ちょっと待て」


「はい?」


今の今までそれでいいと思っていた。
けれど少し考える。
その部屋は自分の部屋より遠いし窓もない。


「空き部屋あったろ」


「あー、船長の前の部屋ですか?」


「そこにしろ」


「確かに今までんとこじゃ何かあったら気づけねぇかも」


了解、シャチは軽く返事をし部屋を出た。






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