海☆長編サブリエ(ブック)

□無くした光、見つけたモノ
2ページ/3ページ



船は予定通り島についた。先に偵察に行ったクルーによると、ログがたまるまで半日。
特に大きな街があるわけでもないこの島は雪に覆われ、小さな集落が幾つかあるだけらしい。

ならば食糧を調達できればもう用はない。早々と立ち去ろう。

すでにローが指示をし、クルーが動き出していた。
ふと、マナの事を考えた。一応船が出るまではいてもいいと伝えてある。


「キャプテン?」

「なんだペボ、お前は降りないのか」

「マナ、本当に降ろすの?」

「……」


暮らし慣れていない寒い冬島で降ろすのは少しだけ気が引けた。
病さえなければそんな気もおきなかっただろうが。

″忘れて下さい″

あの笑った顔が脳裏によぎる。

薬代もなく、これから生活するのに体力ももたないだろう。

生きていくには難しい事が簡単に想像できる。


「せめてこんな寒い島じゃなくても」


「寒くなければいいのか」

「……」

「次の島が夏だったら、暑いを理由に、治安が悪ければそれも理由にしてたらキリがねぇ」


ペボにもわかっていた。
だから言葉が返せない。



「アイツは春島でおとなしくしとけばよかったんだ」


気候の安定した…少なくとも一番マナの身体には負担のない場所だった。

カラン


ローがポケットから出した小瓶の中で錠剤がぶつかって音を出す。

飲み方は一日一粒。
それに発作が起きた時は追加で一つ。

残りの錠剤は三つ。
発作の回数は少なくない事が分かる。

この薬が、何かわかった時。
そういう事を瞬時に頭で理解してしまう自分が面倒だ。


「お前はペンギン達と合流しろ…アイツのところには、おれが行く」


それが、ローの自分への優しさだと気づかないペボではない。
ペボは少し優しいところがある。
ここ数日、マナの面倒を見させすぎたせいで情がわいたのは仕方のない事だった。
それを分かっていたのに離さなかった自分にも責任はある。そう思っているローは自ら憎まれ役を買って出たのである。


「…アイアイ、キャプテン」



人のいい熊でも、船長には逆らえない。
ペボはもう何も言わずに船からおりて皆がいるだろう場所へと向かった。
その後ろ姿はなんとも寂しげだが、仕方のない事。ローは息を一つ吐き出し、船内へと進んで行った。





コンコン


ドアを叩く音に、マナは小さく返事をした。
この部屋に来るのは三人しかいない。

そのはずだったのに、ドアを開けてみれば、予想外の人が立っていた。


「……トラファルガー…さん」


「支度はできたのか」


部屋を見渡し言う彼に、マナは少し笑って頷いた。


「はい。支度も何も…私には貴方の手配書と薬しか持ってきてませんし…あ、この服をいただいても…いいでしょうか?」


「好きにしろ」


マナの着てきたワンピースでは冬島ですごせない。
ローは途中医務室へと寄って用意した薬と袋を一つマナに渡した。
中身を理解できないマナは、それらとローを交互に見て驚く。
当たり前だ。薬は一ヶ月はもつ量があり、袋にはまた一ヶ月は簡単に暮らせるほどのお金が入っていたのだから。



「あ、の」


「好きに使えばいい」


「…」



もらえるはずがない。
袋を持つ手が少し震えた。

今更手助けなどマナは望んでいない。


「私は、自分で何とかします」


「その体で?」


「…どんな先が待っていても、それが私の人生ですから」


案外肝が座っているのか。
いや、ローはわかっている。
この笑いと言葉は″諦め″からきている事を知っていた。

未来を諦めた人間はこういう顔をする。

ギリッと手に力が入った。
マナを気にかける自分に苛立つ。

どうでもいい女じゃないか。

ーなら何故最初に海へ落とさなかった?ー






そうだ。
そこからすでに矛盾は始まっていた。




「…お世話になりました」



マナはローの横をするりと抜け、船を下りる為に甲板へと向かった。















見送る事もせず体を壁に寄りかからせる。…後味が悪い。
これは見殺しにするのと同じ事。
しかし、人なら何人も殺してきた。
今更女一人くらいどうってことないはずだ。







「クソッ…何の騒ぎだ」


考えを遮るように、パンッ!と銃声が聞こえローもまた甲板へと向かう。
マナが出て行ってから数分しかたっていない。
面倒な事になっているに違いなかった。

騒ぎの理由が分からずローは甲板へのドアを勢い良く開く。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ