海☆長編サブリエ(ブック)
□暇つぶし
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最初からそれが狙いだった。
生きるか死ぬか、それは賭けだった。
自分の人生を賭けた大勝負。
目当ての紙切れを一枚、小さく小さく折りたたんで、小さな小瓶を一つポケットにしまい、ゆっくりと歩き出した。
「ふざけた事言ってんじゃねぇぞ!」
バシッと渇いた音。
顔を叩かれた女は体制を立て直し額を床に押し付けた。
「おい、手を上げるな」
いくら船に潜り込んでいた怪しい奴だとしても、イキナリ暴力からとは納得できない、と1人の男が止める。
「いいんです、お願いします」
そんなことも構わず、この女の願いはただ一つ。
″この船に乗せてもらうこと″
「わかってるのか?俺たち海賊だぞ」
「わかっています!私、何でもします!掃除洗濯…何でも覚えます!」
「いや、今からでも遅くない、小船を出すから出ていけ…船長に見つかる前に」
ペンギンと書かれた帽子をかぶる彼なりの優しさだった。この船に乗るということは船長の許可を得なければいけないということ。
ペンギンは女に優しい船長を見たことがない。しかし、どうにかしてやろうにもすでに遅いことだった。
カツン
船の貨物室に、その足音は響く。
「船長⁉」
現れたのは、ひょろりと高い身長の目の下に隈がある「船長」キャプテンと呼ばれた男。
「何を騒いでいる」
言いながら船長は女を横目で捉え、意味深に口はしを上げる。
「女、俺の船に潜り込むとはいい度胸だな」
「…」
答えられない女は自分を見下ろす瞳に、背筋が凍りそうになる。
ペンギンが簡単に説明すると船長は睨むように女を見下ろし、口を開く。
「降りたくねぇのか」
「…は、い」
威圧感が凄かった。
女はそれだけハッキリ伝え、船長の目を反らさず見る。
「名前は何だ」
「…マナ、です」
何が可笑しかったのか、船長である彼は少しだけ考えククッと笑った。
「シャチ、こいつを空き部屋へ放り込んでおけ」
「船長?」
とりあえず、すぐに海へ投げ出すことはしないらしい。
マナはホッと息をもらし、シャチと呼ばれたクルーに連れられ、文字通り空き部屋へ放り込まれ、後丁寧に外から鍵をかけられた。
「……っ」
マナはあの船長の顔を思い出す。
玩具を見つけたように笑った船長、このハートの海賊団のトラファルガー・ローの冷えた笑み。
思い出し、体をぶるりと震わせる。
「…大丈夫、…これくらい」
そう呟き、しゃがみこんで顔を伏せた。
「キャプテン。女の子がこの船に乗ってるって本当?」
「…あぁ」
ローの横には白熊のペボ。
喋る白熊は、女の子どうするの?
と首を傾げた。
さて、どうしたものか。
面倒な女なんてすぐに捨ててしまえばいいのに、ただ、何故か単純に興味がわいた。
何か企みがあるに違いない。
死の外科医 トラファルガー・ロー
王下七武海の1人
賞金額4億4000万ベリー
彼を狙う者がいてもおかしくない地位と賞金額はある。
しかし、こんなに露骨に、しかもこの船にはいるはずのない女(男でも確実にわかるが)。
誰かが送り込んだにしろ、そうでないにしろ、ローにとっては少しの暇つぶしになりそうだと思った。
「飽きたら、捨てりゃあいいだろ」
冷たい声は静かに、しかしハッキリとクルーに届いた。
→それぞれの役目