海☆長編サブリエ(ブック)
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ご迷惑をおかけしてすみません
マナから何回も聞いた言葉だ。
面倒を見ると決めたローに、その言葉は気に入らないものだった。
「………で?」
他と比べて広く少し豪華な部屋に不機嫌な声。
触り心地のいいソファーとベットの上には乱雑に本が置かれていて本来の役割を果たしていない。
床にも本は散らばっているせいで足の踏み場もないが、動かないローにとっては気にする事でもないらしい。
今のポジションはいつものソファーとベットとは違い、普通よりは大きくてシンプルな机と椅子。
ローは机に置いてあるカルテを、ペンでコツコツと叩いた。
「何が言いたい、ペンギン」
「言いたいんじゃなくて、聞きたいんですよ船長」
「珍しいじゃねぇか、お前が」
「ええ、ええ、自分でもそう思います」
不機嫌な声とは裏腹に、少し愉快そうにローが口端をあげて見せた。
ペンギンはマナのカルテをローに届けるついでに、先ほどの違和感の正体を探っていた。
そもそもペンギンはローに唯一と言っていいほど意見できる人物で、ローが言わずともその考えの先を読む。
そんな頭のいいペンギンが違和感の正体を掴めない事が珍しく、ローの機嫌を少しだけ上昇させた。
「心配されない、しない、なんて普通あります?誰でも少しくらいあるもんじゃないですか」
「ふつう、な」
普通じゃないなら有り得ることだ。
それに、ローは一瞬黙ってため息混じりに続けた。
「信用してないんだろう…誰のこともな」
ストンと落ちた言葉に、何故かペンギンは納得した。
信用されていない。
根本的な問題だ。
マナの近くにいた者にはわからない。
マナに近づかず見ていたローだからこそ気づいた事だった。
ただ、思い返してみれば納得する部分がたくさんある。
「それに…あいつはその事には気づいてないんだろ」
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